第350話Sobaru the Blues♪

     

Buddy DeFranco の「Cooking the Blues ♪」―

https://www.youtube.com/watch?v=SoT-E-YWrqg

立川の「無庵」の店主竹内さんとお話していたとき、飛び出した曲名である。久しぶりに耳にした。昔は、曲名が面白かったので時々聞いていたが、すっかり忘れていた。しかし、いま蕎麦に関わっている者どうしが話題にするにこれほど相応しい曲はないかもしれないと可笑しかった。

私もそうだけど、竹内さんも高校時代からジャズを聞いていたという。

二人はほぼ同年齢だが、私の場合は九州の片田舎の高校生、方や東京の高校生、環境が全然ちがっていた。私は小さなラジオで聞くだけ、竹内さんは東京のジャズ喫茶やレコード店巡りをしていたというから、私から見れば、筋金入りのジャズファンだ。「1950年代60年代のジャズは人類の財産だと思う」と言いながら、集めたLPは3000枚。そして今はジャズの流れる古民家蕎麦屋として知られている。

そんな竹内さんだから、「ジャズと料理には共通点がある」とはっきり言う。同じサックス奏者でも、ソニー・ロリンズはソニーらしい味付け、ジョン・コルトレーンはジョンらしい味付けをして演奏する。

同じように、料理人は庖丁で自分らしいクッキングをする。

ジャズは楽器で、料理は庖丁で、インプロビゼーション、つまり即興、発想、創造するというわけだ。そんなジャズ感覚が料理にも見られる。

蕎麦を使った料理には、蕎麦豆腐、蕎麦味噌、蕎麦掻、蕎麦切があるけれど、これらを続けると食べる側は少々重いので、その間に魚、鴨、季節の野菜を供するようにバリエーションを工夫し、リズムを取りたい・・・、と言う。

やっぱり、このやり方はジャズプレイ感覚である。

そんなことを静かに語る竹内さんの身体つき、顔をあらためて見てみると、どことなくジャズ・サックスの巨人ソニー・ロリンズに似ている。

と竹内さんに言ったとたん、それからソニー・ロリンズ、セロリアス・モンク、マイルズ・ディヴィス、ジョン・コルトレーンなどの話に花が咲いた。

そんな中で頂いた「無庵」の蕎麦はやはりjazzyだった。

【蕎麦豆腐 季節の野菜 蕎麦味噌 蕎麦掻 蕎麦切(ざる蕎麦、かけ蕎麦)】― こんなJazzプレイ感のある蕎麦会席を何と呼ぶべきか!

参考:ほしひかる筆「暖簾めぐり23 ― 無庵}(『蕎麦春秋』Vol.36)

〔エッセイスト ☆ ほしひかる〕