第119話 国王神社、第3回蕎麦打ち奉納

     

お国そば物語⑦付けけんちん蕎麦

 

 茨城県の坂東市は、古の東国で決起した平将門の基地石井営所があった所であり、ついには藤原秀郷らに討たれた地でもある。だから、市内各地には将門ゆかりの遺跡が散在している。

 将門の、斬られた首は京へ運ばれたが、遺体は神田山延命院(坂東市神田山)に隠し埋められたという。また将門33回忌の972年に将門の三女如蔵尼が霊木を得て父の影像を刻んで祀ったのが現在の国王神社(坂東市岩井、宮司:飯塚美貴雄)であるという。

 こうした歴史伝説ちなんで、坂東市では毎年将門祭りが開催されている。その第38回目の祭りが平成23年11月13日に開催された。祭りの目玉は武者行列、一行は国王神社に参拝してから市内へと出立することになっている。

【延命院、国王神社、将門神】 

われわれ(江戸ソバリエ協会+鵜の会)は、その国王神社で板東市や将門太鼓チームなどの協力を得て「蕎麦打ち奉納」を行っている。坂東市の将門神への奉納は今年で3回目。

 元々は、「かんだやぶそば」のご主人から、神田神社で「江戸蕎麦奉納」をすすめられ、行っていたところ、同じく将門様を祭神とする国王神社でも「ぜひ」ということになった。

 将門神へ奉納した後は、一般参拝客のみなさんにも振舞うことにしている。蕎麦粉は当然ながら茨城産の「常陸秋そば」をおいて他にないだろう。

 さて、一段落したところで、われわれも昼食を頂く。仲間が打った蕎麦、神社側が用意してくれた鯵フライ、白菜の漬物、赤飯、そしてけんちん汁だ。卓には何の脈絡もない食べ物が並んでいるようだが、実はそうではない。そこにはみんながお得意のものを持ってきたという経緯がうかがえる。たとえば蕎麦にしてからがそうである。蕎麦打ちを得意とする者たちが遙々東京からやって来て打った蕎麦である。おそらくけんちん汁も、赤飯も、白菜の漬物も、そうだろう。だから旨いし、これだけ食べれば腹一杯になる。

けんちん汁 「常陸太田の物語」より】

 ところで、茨城といえば、《付けけんちん蕎麦》の発祥の地として知られている。だから、いつか茨城で食べてみたいと思っていたが、なかなか機会がなかった。

 そんなところへ目の前にけんちん汁が出てきた。当地の人は、このけんちん汁に蕎麦を付けて食べる。だから《付けけんちん蕎麦》とよばれている。

 想うに、この《付けけんちん蕎麦》も、今日の神社の祭事のように、皆が何かで寄り集まったときに、けんちん汁を作るのが得意の者と蕎麦打ちが得意の者とがひとつになって生まれたものだろう。いわば1+1=2の算数だ。

 それがいつごろのことだったかは知らないが、〝村の祭〟とは、〝世間知〟とはそういうものではないだろうか。

 

参考:11/13国王神社、第3回蕎麦打ち奉納、「『常陸秋そば』の故郷 常陸太田の物語」、お国そば物語(第118、89、66、44、42、24話)、

〔江戸ソバリエ認定委員長、エッセイスト ☆ ほしひかる