第410話 緑の《ひすいそば》の美味モデル

     

われわれには「五感」があるが、ほとんどは目で情報を得ているという。
ある実験によれば、受信比率は視覚87%、聴覚7%、触覚3%、臭覚2%、味覚1%だというから、視覚が圧倒的だということがお分かりだろう。
それは料理界でも同じのはず。だとしたら、蕎麦界の色はどうか?
そう思ってあらためて見てみると、本体の蕎麦麺の色といったら、白か、茶色だろう。
江戸中期に生まれた《更科蕎麦》は「一握りに星三つ以内」といわれるように白い更科粉を使い、上品な蕎麦といわれているが、ときにはそれを越えて「芸術」を感じることすらある。
対して江戸末期に両国の蕎麦屋が始めた《いなか蕎麦》は甘皮を入れた茶色の蕎麦で、野趣性を感じさせる。
以来、蕎麦といえば、白か、茶色の世界だったところに、平成になって緑色の《ひすいそば》が登場した。
地味な世界に爽やかな色、これは革命的なことである。
蕎麦通が早刈りの緑色をした蕎麦を愛する向きはあったけれど、普通は緑色が話題になることは少なかった。

革命的ということは常識外ということである。常識外であれば、これを浸透させるには相当な力がいるといえよう。
でも、手がないわけではない。
緑度を訴えて《ひすいそば》と名付けられたくらいだ。緑度を中心にして展開すればいい。しかしながら、現在の緑の尺度は素人には難しい。ここが難点だ。
近頃、更科蕎麦においては粉体白度計を用いて、「この更科粉の白度は85度」と言ったりしていて、某製粉会社では、白度約83%以上を更科粉とし、以下は更科粉として販売しないらしい。ただ、使用する粉体白度計によって、白度は違うから某社の内規ということになるかもしれないが、それでも分かりやすい。

それから、白い《更科蕎麦》や茶色の《いなか蕎麦》を食べなから思うことは緑の《ひすいそば》のモデルはないだろうかということである。

麺の形はどうか? 白い《更科蕎麦》は細くて長い方がいいが、茶色の《いなか蕎麦》多少太くて短くてもかまわない。緑の《ひすいそば》はどうだろう。メッシュの問題、十割か、二八の問題もあり、そのどちらが美味しいのだろう。
薬味はどうか? 《更科蕎麦》は山葵か、白い細切りの白い葱がいいが、《いなか蕎麦》は辛味大根もわるくない。《ひすいそば》はどうだろう。
汁は? 《更科蕎麦》は甘め、《いなか蕎麦》は鹹めがいいけれど、《ひすいそば》はどちらが合うのだろう。
また《更科蕎麦》は上品な蒸籠に盛った方がいいし、《いなか蕎麦》は笊がいい。じゃ、《ひすいそば》は何に盛った方が美しいだろう。

こんな課題も、たぶん日頃の声にあるだろう。そうでなくても蕎麦好きを集めて試食アンケートを実施すれば、結果は出る。参加者人数は多いほどいい。それに蕎麦好きがいい。無作為法もあるだろうけれど、この場合は相応しくない。「おれはラーメンの方が好きだ」とか、目的外の感想をもつ人が出たりするからだ。

アンケート結果が予想通りだったとしても、以降の展開に自信がもてることと思う。
とにかく、革新的な美味しい緑の《ひすいそばの》に発展に期待したい♪

*平成29年3月23日 「ひすいそば」ブランド向上研修会(塩尻市)でお話した内容から抜粋して述べています。

〔文・絵 ☆ 江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる〕