第473話 朝赤龍、断髪式

      2018/02/16  

~ 伝統の型の美 ~

「朝赤龍の断髪式に行きませんか」と、ソバリエの北川さまから誘われた。相撲は好きだけど断髪式はまだ観たことがなかったので、即「行きます」とご返事した。
当日、両国の国技館内で、多くの関取たちとすれ違ったが、鍛えた身体を包む羽織袴姿の彼らはなかなかの男前だった。それに髷というものが羽織袴によく似合う髪形だと思った。そういえば、小生が「日本そば新聞」に連載している小説『世紀の舵取』では、和服に髷のスタイルにこだわっていた岩倉具視がアメリカで、ついに髷を落として洋服を着るようになったことを挿入した。理由として、西洋料理を食べる時には和服は不自由だとしたが、直感で洋服には断髪だと思ったからだった。

ところで、今日の断髪式は、正式には「朝赤龍引退 錦島襲名披露 大相撲」という。当然、幕下三段、十両、幕内力士の取組もある。だから11時半から16時までたっぷり大相撲の雰囲気が味わえるという趣向だが、四十八手の相撲はむろんだが、取組以外の式行事 ― 櫓太鼓、横綱綱締、土俵入、髪結、断髪、弓取 ― にも目を奪われた。なぜなら、それらには歌舞伎のような「型の美」があったのである。
歌、華、茶、能、歌舞伎・・・、日本の伝統芸術や伝統競技というものは、型や形を守ることなんだということが、国技館の枡席に半日座っていて実感できた。
だから、海外活動をするときは、「日本の伝統は型の美です」と伝えようと思う。蕎麦打ちも、蕎麦の食べ方も、形が大事です、と。

《朝赤龍引退 錦島襲名披露 大相撲》  
一 幕下三段目決勝正五番 *
一 相撲甚句
一 十両土俵入
一 髪結実演
一 十両取組 *
一 朝赤龍最後の土俵入
一 初切
一 ご挨拶
一 断髪式
一 花束贈呈
一 横綱綱締め実演
一 中入 幕内土俵入 横綱土俵入
一 櫓太鼓打分実演
一 幕内取組 *
一 弓取式
一 千穐万歳

〔文 ☆ エッセイスト ほしひかる