第514話 4周目の「更科蕎麦と江戸野菜を味わう会」

     

「更科蕎麦と江戸野菜を味わう会」(通称:更科堀井の会)も4年目を迎えた。
ただ、この会を始める前に江戸ソバリエ協会のレディース・セミナーとして「江戸蕎麦+江戸野菜」の会を1年間催していたから実質は5年目になる。
会を始めた理由は、江戸ソバリエ協会が主張する「日本の蕎麦は江戸蕎麦である」ということの、その基本である江戸の料理は「地産地消だった」ということからだった。
江戸初期の『毛吹草』には武蔵の国は蕎麦の産地として紹介されているし、薬味には千住葱、奥多摩山葵、赤山大根、内藤唐辛子が重宝されていたことはよく知られている。
ほんとうの江戸蕎麦を楽しむためには、できるだけ江戸産の食材を使用すべきだというわけである。
そこで、以前から懇意にさせていただいている江戸東京伝統野菜研究家の大竹先生に協力してもらうことにし、料理は、私が「知的料理家」と呼んでいる林幸子先生に、そして老舗ながら進取の気象にあふれる更科堀井さんにお願いし、実現にいたったわけである。
これまでを振り返ると、3年間12回で、大竹先生は約40種の江戸野菜を供され、林先生は100品を越える料理を考案、そして更科堀井の河合料理長がそれを見事に作り上げられた。
回を重ねるごとにお二人の息は合うようになり、その結果驚くべき逸品が誕生したことは参加者の皆様が痛感するところであると思う。
4周目に入った今日(平成30年10月)の料理にしても然りであった。
なかでも衝撃の料理は、更科蕎麦を担々麺風にした《更科担々麺》と柔らかめの渡辺早生牛蒡をたっぷり使った《渡辺早生牛蒡繋太打ち》だった。
更科蕎麦は50~60種もの《変り蕎麦》を生み出すことは蕎麦好きなら誰でも知っているが、中華風まで合わせることができるとは驚きだ。若い人たちからは《更科担々麺》をメニューに加えてほしいという声が上がり、巨きな渡辺早生牛蒡の強烈な香りと味に対抗するには太打ちしかないことを証明した《渡辺早生牛蒡繋太打ち》に唸るのてせあった。

御 献 立
一 早稲田茗荷甘酢漬け 蛸と伝統小松菜添え
一 千住葱味噌
一 内藤南瓜更科蕎麦掻き 奥多摩山葵 塩添え
一 更科担々麺刻み内藤唐辛子
一 滝野川牛蒡と穴子の八幡巻天抜き
一 渡辺早生牛蒡繋太打ち
一 金町小蕪のグラッセ

しかし、こうした逸品の完成は、林先生と河合料理長という二人のプロの重なる体験と意欲があってのことである。おそらく、230年の往古の蕎麦屋でも、このような進取の試行がなされていただろうことを想うとまた楽しくなってくる。

〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ協会 ほしひかる