健康ニュース 11月15日号 健康番組のモラルは?

     

 何気なくつけていたNHKテレビから、「長寿の極意」というアナウンスに気を取られ見ていました。番組は、「さあにぎやか(に)いただく」という標語を話していました。「さ」は魚、「あ」は油、「に」は肉、「ぎ」は牛乳、「や」は野菜、「か」は海藻、(に)「い」はイモ(食物繊維)、「た」はたまご、「だ」は大豆、「く」は果物で、これらを食事で摂れば健康長寿に役立つという趣旨です。

これは(*)新開省二先生が提唱され、健康に関心ある方は良く知っているフレイズです。

問題は、「あ」の油の説明で登場したS・T医学博士です。どのような説明をされるのかと注意して聴いていると、「油の中では、えごま、オリーブ油などが最高です。健康長寿のためにこれらの油を食事で十分摂りましょう」と言われていたことです。

この説明のどこが問題とお考えでしょうか?

2016年4月、消費者庁が「ココナッツオイルに認知症予防の根拠なし」という発表をしました。それまでは、「認知症予防にはココナッツオイルが最高の油」と旗を振って扇動していたのがS・T医学博士です。何冊かの著書もベストセラーになっていたと思います。スーパーの食用油売り場では、入荷すれば即売り切れという状態でした。小子の何人かの知人の中には、ココナッツオイルを食べないと不安になるから、と売り場に並んだ商品を大量に買い込み、冷蔵庫に保存し、認知症予防目的に夫婦で食べているという方もおられました。

何人かの学者は「ココナッツオイルとはヤシ油のことで、固形石鹸の材料に使うなど、飽和脂肪酸の塊であり、中鎖脂肪酸が多いからといっても健康に良いというメリットは少ない。ましてや認知症対策になるなどありえない」と言い続けておりました。

頻繁にテレビCMにも登場していたあのS・T医学博士が、メディアから姿を消したのは、消費者庁の「ココナッツオイルは認知症予防に根拠なし」という発表があってからです。しかしS・T医学博士は一言のコメントも発表もされていません。もちろんスーパーなどの売り場からココナッツオイルはほとんど姿を消しました。

S・T医学博士は、ココナッツオイル問題は、3年以上前のことゆえ、世間は忘れていると考えたのでしょうか。ココナッツオイルには一言も触れず、健康には、えごまなどが良い!とよく公共放送番組で臆することなく言えたものだと思いませんか!

NHKも番組編成の上で、世間を騒がせたココナッツオイル購入者のことを寸分も考えずに、S医学博士にコメントをしてもらったのでしょうか!

せっかくの健康長寿に良いといわれ。文中の標語「さあにぎやか(に)いただく」が、S・T医学博士に言わせたというだけで、小子の心中では台無しになってしまったと言っても過言ではありません。

これだけを食べていると認知症予防になる、というような便利な食物は絶対にありません。しかし医学博士という方が、頻繁にテレビで訴えた時、信じてしまう市民にも自己責任ありという考えはいかがなものでしょうか。わずか3年余りで、市民は忘れていると判断したとしたら、NHKは公共放送の立場を自ら捨てたといえると思いますが・・。

*新開省二先生先生:東京都健康長寿センター研究所副所長で、文中のS・T医学博士とは全く関係はありません。健康ニュース11月15日号横書き