第642話 《ガレット》

      2020/06/21  

こういうときには一人で蕎麦屋巡り

コロナ禍の蕎麦屋さんのがんばりを見ておこうと思って、時々蕎麦屋巡りをしている。今日は上野広小路の「うえのやぶそば」にやって来た。本店は「上野藪」と漢字だが、支店はひらがなで表記してある。これからも「上野藪」という名前に誇りをもっておられることがうかがえる。
当店も、消毒・マスクなどの緊急対策に抜かりはない。「準備に今までの倍は費やすが、食業界は率先してやらなければならない」と言う。
そういう話を聞く度に食においては衛生管理は第一であることをあらためて痛感する。
ところで、今日は《ガレット》を頂いた。社長は「本店ではやりづらいところがあるので、若い客が多い広小路店でやった」とおっしゃっていた。
名前は《こんぷれーと》としてある。一般的に蕎麦粉は《ガレット》、小麦粉は《クレープ》と言うが、ブルゴーニュの西部地区は蕎麦粉でも《クレープ》と言うから複雑だ。ともあれ、ガレットもクレープも、小麦のないブルゴーニュやノルマンディ辺りから始まったらしい。だからノルマンディー出身のミレーの「種まく人」は蕎麦の種を播いているわけだが、それにこの地方の産物の玉子とハムとグリュイエールチーズを包み、野菜サラダが添えてあるのが〝郷土食〟の「ガレットコンプレ」。それが今や〝世界食〟になった。
なぜなら玉子やハムはどこにでもあるという普遍性がそれを可能にした。ただグリュイエールチーズは元々はスイス産だが、フランスでも造られるようになったらしい。なぜそうなったかはまだ勉強不足で分からないが、そんな風にヨーロッパの食を理解するためにはチーズ文化の勉強は欠かせないだろう。
話を最初に戻すと、当店ではコロナ禍中に限って《応援ぶっかけそば》を供している。元々は《まかない食》なのでお安く設定したらしい。
世間では《テイクアウト》や《宅配食》が話題になっているが、プラスティク・フリーやCO2のことを考えれば、どうかと思うところがある。その点「老舗の味をお安く」という考えはいいかもしれない。

〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ&コムラード・オブ・チーズ ほしひかる