第250話 冬至蕎麦

     

内藤南瓜 ☆ ほし絵

南瓜の、絵というと、われらの世代は武者小路実篤の絵を想い浮かべる。南瓜を一個か二個描いてあって、余白に「君は君 我は我也 されど仲よき」とか書いてある。今のあいだみつおか、絵手紙の元祖のような人だといえるだろう。
その実篤のお孫さんという方と、ある蕎麦会でお話する機会があったが、お爺さん(実篤)に連れられて蕎麦屋に入ったときは、だいたい《たぬき蕎麦》だったという。実篤の兄武者小路公共は外交官だったせいか、食通だったらしいが、弟の実篤は食べ物には関心がうすかったようだ、とおっしゃっていた。
南瓜の原産は南北アメリカ、日本にはカンボジアから九州にポルトガル人が持ち込んだのが最初、戦国時代ごろだった。当初は花だけを観賞していたが、江戸中期以降から口にするようになり、なぜか関西人より江戸人の方が好んで食べるようになった。

ところで、美味しさの表現のひとつに〝ホクホク〟というのがある。南瓜、芋類、栗などの食感が甘さとあいまって人気が高い。
その南瓜の種の部分を捨ててレンジでチンして、アイスクリームを入れると最高のデザートになる。南瓜の甘さとホクホクさが、アイスクリームに抜群に合う。ずっと前に、あるレストランで食べてから気に入って、自宅で作ったところ大好評!まだ少年少女だった子供たちが子犬のように夢中になって食べたことを思い出す。
ただし、南瓜のホクホク感は実は西洋南瓜であって、和の南瓜はやや水ッポイ、見た目は鎧を着たように硬そう。そんな和南瓜の代表格が新宿辺りを産地とする内藤南瓜だ。
それを林幸子先生(江戸ソバリエ講師)が料理してくれた。内藤南瓜を蕎麦汁にした《かけ蕎麦》だ。鰹出汁とミキサーにかけた内藤南瓜を合わせ、天然塩を隠すていど加えて蕎麦汁にする。西洋南瓜だとトロ味がありすぎてよろしくないし、またその甘味が蕎麦には似合わない。その点、野趣性のある蕎麦は控えめな内藤南瓜と相性がいい。これぞ素材を活かした逸品といえるだろう。
「南瓜は冬至に食べるといい」というが、これがほんとうの《冬至蕎麦》だと言いたいくらいだ。

林幸子お料理シリーズ(第250冬至蕎麦、232四氣の料理、216江戸蕎麦料理-秋の章、213 知的料理術、206 美味しい勉強会、205 江戸蕎麦料理-夏の章、190 江戸蕎麦料理-春の章、176話 江戸蕎麦料理-冬の章)、

〔エツセイスト、江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる