第254話 老舗「かんだやぶ」の再開

     

蕎麦界図☆ほし2013.10.25「第1回日本蕎麦会議所」パネルデスカッションにて発表】

平成26年10月20日から、老舗の「かんだやぶ」が1年8ケ月ぶりに再開されることになった。
その前に、堀田社長にお会いしてみると、10月4日から19日までの13日間は、開店準備・ゲストトレーニング期間を予定しているという。どういうことかというと、お世話になった方にお越しいただいて、料理、接客などの訓練をするとのこと。
「なるほど、だから開店準備ゲストトレーニングですか。」
「ついては、江戸ソバリエも、そのゲストとして考えている」とおっしゃるので、「せっかくだから」ということで、およそ40名ほどの人をお願いすることにした。
その日、私も仲間たちと伺った。すると、以前には独特の雰囲気をつくっていた板塀がない。街に溶け込むために思い切って外したという。代わりに、赤城山から移植された欅の木が新しいシンボルになりそうだ。
いつかお話をうかがったときに、「お店は街と共にある。とくに老舗というのは百年後の街の風景をも想定しておきたい」とおっしゃっていたが、それがこういうことかと思った。
お店に入って卓に着き、お酒と料理を頂きながら2時間ほど愉しんだ。焙炉に入った焼のり、天ぷら、抜きの美味しさ、これが老舗蕎麦屋の味だ。
店内を見回すとゲストたちで満席。気のせいか、周囲の塀を取り払ったことで、百数十年の時間までもが取り払われ、もしかしたらゲストのなかには創業1880年以来のお客様もいらっしゃるのでは、と錯覚しそうな不思議な雰囲気が漂っていた。耳を澄ますと、相変わらずの女将の通し声が響いてくる。それも遠い明治からタイムスリップして届くかのようだ。これが老舗の空気なんだろう。
そろそろ、お蕎麦を頂いて、失礼することにしようか、ということで〆に種物をいただいた。
帰り際に「13日間のゲストは何名ぐらい」と尋ねてみると、何とその数2100名様を越えたという。
そのとき、フッと日比谷松本楼のカレー伝説が頭を過った。全国から再興の声が集まって再建され、昭和48年9月に3代目松本楼がオープンされたときから記念日の10円カレーの物語が始まったと伝えられる。
私は、この度のゲストトレーニングも、「かんだやぶ」の新しい物語の初めとなるのではないかと思った。
二つとも江戸・東京の老舗の気風を絵に描いたような話だからである。

そして、こうした老舗が柱となってこそ、日本の食の裾野は広がっているのだろうと思った。

〔江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる