1956年一橋大学卒、同年現池袋パルコ入社、1976年サンチェーン代表取締役社長、 1989年ダイエーコンビニエンスシステムズ代表取締役副社長、1995年ローソン相談役、 1999年ローソン親善大使。現在ソフトブレーン・フィールド(株)特別顧問。 1992年(社)日本フランチャイズチェーン協会常任理事、副会長を歴任 。鹿児島出身 |
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鈴木貞夫氏(すずきさだお) | ||
【8月号】 |
流通人生50年、百貨店、外食、コンビニと分野は変ったが、私はいつも、その時々の主役業態に携わるという幸運に恵まれた。 今、世界は、激しい変化と熾烈な競争の時代に突入している。全ゆる分野で、業種業態の枠を超えた格闘戦が始まっている。その中で、我々は時代に流され、翻弄されてしまい、ややもすると自分たちの目指すべき姿を見失うことが多い。だからこそ、《原点》が大事である。《原点》がなければ、戻るべき基本が分からず、未来を切り拓くことが出来ない。時代環境が変っても《原点》さえあれば、必ず壁を破り、新しい未来を築くことが出来る。 熾烈な大競争時代、商人として絶対に見失つてはならない《原点》とは何か。それは、「お客様の毎日の暮らしをより豊かなものにしたい」という、高い「志」である。「自分のお店が、常にお客様に選ばれ、支持されるにはどう在らねばならないか」を、日々考え、追求し続ける、熱い「使命感」である。もとより、大競争を勝ち抜くには、時代の二―ズとウオンツを見抜く鋭い目、高い知性と感性、そして経験に基いた戦略的思考力と実行力が不可欠である。だが、なによりも第一に求められるのは「、何のために、何を目指すのか」という「未来への意志」である。将に、今こそ、「志の時代」・「商人魂の時代」が到来していると言えよう。この機会に、私の商人哲学の幾つかを書き記し、ご参考に供したい。 (その一)『一灯照隅・万灯照国』 私の原点の第一は、『一灯照隅・万灯照国』の精神である。 約1100年前、比叡山延暦寺を開いた伝教大師最澄は『山家学生式』の中で、『一灯照遇・万灯照国』と記している。この言葉の真意は、「仏道(=人々の幸せと自らの完成を求める心)を忘れず、一隅(=自らの持ち場)をしつかりと守る人は国の宝であり、そういう人々を数多く育てる事が国の繁栄の基となる。」である。「正しい仏教が行われれば国が繁栄する」との考え方は、後に日蓮に継承され、更に徹底して発展していくことになる。梅原猛氏によれば、「最澄は、日本思想史上に於いてもつとも純粋かつ精神的な人物で、日本人が誇るべき人物の一人である」と述べている。 現代社会は、科学技術の進歩により、便利で豊かになつたはずだ。然し、政治や経営の根本に「人間の限りない尊さへの視点が欠けてしまえば、健全な社会の発展に大きな影を落としてしまう。 「人間いかに生きるべきか」、「企業経営の目的は何か」、という原点を問い直す所から、未来への新しい活路が開かれるのではないだろうか。 人間の幸福はどこか遠くにあるものではなく、身近な家庭、職場、地域のなかで、自らの命の素晴らしい宝を最高に輝かせていく事である。 企業も、個人も、「いかに尊敬に値する存在になるか」、その志と意思が問われている。サンチェ―ン時代の経営指針、「地域社会の太陽となる」と「地域で一番親切で便利なお店となる」も、ロ―ソンの理念とビジョン、「まちのホツトステ―ション」と「オンリ―ワンナショナルチェ―ン」も、将に、『一灯照隅・万灯照国』の志の、商業における実践であり、時代の流れや流行に左右さない、普遍の道標であるといえよう。 勿論、いかに高邁な理念も社員の心を掴めなければ、空論に過ぎない。経営者が社員の心を掴むには、理念に形を与え、具体的に旗印を立て、進むべき戦略を示し、命を吹き込むことだ。そこに社員の糾合が生まれ、情熱が燃え上がり、組織的な前進が始まる。経営者は熱意、誠実、知恵を根本に、まず自分が現場最前線に飛び込むことだ。経営者が動けば道は開ける。合えば社員は変わる。語れば心は掴める。言葉は行動を生み、その繰り返しは、企業の体質を形作る。地道にコツコツと粘り強く努力し続けていけば、必ず壁は破れるものだ。いかなる時代環境の中でも、経営の誠実性、納得性、明朗性の中に企業を伸ばす鉄則がある。 (次回、(その二)『随所作主・立処皆真』に続く。) |
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