食の今昔物語 5月編 かしわ餅の心

     

  五月晴れの空に悠々と泳ぐ鯉のぼり。五月を代表する風情です。そして5月といえば、食べ物ではかしわ餅でしょう。今では人工葉に包まれたかしわ餅を見かけることも珍しくはありません。本来はかしわの葉に包まれているからこそかしわ餅と言えます。

 ではなぜ桜の葉でなく柏の葉が選ばれたのでしょうか。

 常緑樹である柏は、松とともに一年中色を変えないことから、節操の堅いことの象徴として、また邪気を払い長寿になると信じられていました。柏の葉はとても大きいのです。昔の人は、この柏の葉を食器の代わりや食べ物を包むために使っていたと言われています。もちろん柏の葉の持つ殺菌作用、食べ物の腐敗防止効果も貴重であったものと思います。

 でもこのような樹木の葉は柏以外にもあるはずですが、いったいどのような理由で柏の葉になったのでしょうか。 

 今でこそ五月五日は「こどもの日」と誰でも知っていますが、「こどもの日」と制定されたのは1951年(昭和26年)、児童憲章制定を記念してのことです。それまでは端午の節句といい、生まれた男児が健やかに成長することを祈り、祝った日でした。ここに柏の葉が使われた意味があります。

 柏の葉は、新芽が出ないと古い葉が落ちない、という特徴があります。「男の子が生まれるまでは親は死ねない」「後継者ができた」「家が途絶えない」「子供に世代を受け渡す」など、すなわち家系を途絶えさせないという願いを込め縁起を担いで柏の葉を使ったのです。

 柏のように、代々と家系が続いていくことへの願いは、核家族化が常識となった現代ではなかなか理解できないことかもしれません。いやそれどころか、女の子より男の子の誕生を強く希望していたということは、今の時代では相当非難の対象となることでしょう。 

 ちなみによく見かける人工葉のかしわ餅ですが、この人工葉が普及していることにも理由があります。「国内では柏の木が自生している地域はわずかしかなく、生産が需要に追い付かないため、やむを得ず代用葉として使っている」と業界の関係者は語っております。環境破壊が社会問題となっている今、これ以上かしわ餅の葉が人工葉にならないようにあって欲しいものです。

 それにしても、かしわ餅を包んでいる葉に、こんなにも深~い意味があることを知った上で食べると、また違った味わいができるのではないでしょうか。 

 補足 端午の節句がなぜ男の子の節句となったのでしょうか。端午の節句には、かしわ餅の他に、菖蒲湯に入るという習慣があります。この菖蒲の同音異義語として「尚武」があります。尚武とは武事・軍事を重んずることで、これが男の子の節句と言われたものと考えられています。