第825話 郷土の空の下で食べるもの

      2022/12/20  

十勝行自信から-Ⅰ

 令和4年11月、とかち帯広空港はうっすらと雪が積もっていた。
 迎えに見えた主催者側の折さんによると、今日は初雪だという。
  私たち4人(小生と、蕎麦料理研究家の永山先生、西武文理大の小山先生、それに主催者の阿さん)は講演をするために、十勝へやって来た。後発の便で、信州大の井上先生、筑波大の足立先生も見えることになっている。
  それにしても今朝はよく混んでいた。地下鉄丸の内線は早朝の6時前だというのに座れなかった。羽田空港の荷物検査はいつもより3~4倍の時間がかかった。帯広空港行のJALも満席だった。
  さっそく、私たちは折さんの車に乗せてもらい、会場である音更の十勝温泉「観月苑」に向かった。
  広大な十勝平野を道路が一直線に貫いている。空港や他の道路は、北国らしく白樺並木が見事である。畑には白鳥や丹頂鶴が遊んでいた。いかにも北海道らしく〝白〟が効いている景観である。
  途中、折さんの蕎麦道場に立ち寄った。その後、昼になったため「帯広に来たら名物の《豚丼》を食べてください」と言って、「ゆう天」という店に案内された。私は《豚丼》は二度目である。前にも折さんに他の店へ連れて行ってもらったことがあった。だから懐かしい《豚丼》だ。豚肉は厚切りのロース。それが鰻の蒲焼き風の垂れで焼かれているから、食欲をそそる。肉の上にグリンピースがのせてあるが、他に余計な具材が入っていないシンプルな丼物であるから、食べやすく、若い人ならお代わりするだろうと思った。
  折さんの話によると、十勝地方では、明治時代末ごろから養豚業が始まり、豚肉が食べ親しまれてきたという。そして昭和初期になると、帯広市内の食堂が、炭火焼きした豚肉にして売り出し、大人気になった。
  この折さんという人は面倒見がよい。われわれの送り迎えはもちろんのこと、その車中では十勝地方の風土の解説から郷土食まで、まるで十勝ガイドの有資格者のように分かりやすく話してくれる。
  翌日、帰るときもそうだった。
 「帯広のラーメン、食べていくか」ということになった。
  店は帯広商店街のアーケードにある「いすず」というラーメン屋であった。14時ちかいというのに満席。人気店のようであるから、少し待たされ、《味噌らーめん》を食べた。素直な美味しさがしたが、何よりも寒い北海道では温かいラーメンが必要なのだと当たり前のことに、今さらながら納得した。
  「いすず」の目の前にお菓子の「六花亭」の本店があった。立ち寄ってお土産を買った。お菓子はお店のブランド代わりになっている手書き風の花の絵の紙袋に入れてもらった。絵は可愛らしいが、だからといって稚拙に堕ちていないから、野暮な男たちが持っていても違和感のない品のよい絵であった。
  空港に着いて、少しだけ土産店を覗いた。《よつ葉 発酵バター》が目に入った。わが家の常備バターなので、裏を見ると「工場:音更町」と記してあるではないか。そうだったのか、この土地で製造していたのかと思いながら、横に目をやると《ばやき》(竹屋製菓)というのがあった。何だろう?と一つ買ってみたが、個性的で美味しかった。これぞ〝お土産〟という気がした。それに《ハスカップ・ジャム》も。ただこれは何度も食べたことがあるが、だいたい私は珍しいジャムは、買って朝食に味わってみることにしている。余談だが、最近の珍品は日本橋「ミカド」の《珈琲ジャム》だったかもしれない。
  こうした土産物はさておくとして、《豚丼》《らーめん》などの郷土食は郷土の空の下で食べるものと、この十勝行から痛感した。

〔江戸ソバリエ協会 理事長 ほし☆ひかる〕
写真:豚丼、らーめん