(その二)『随所作主・立処皆真』
第二は、『随所作主・立処皆真』の行動である。
この言葉は学生時代に河合栄治郎の本で知ったと思うが、中国唐代の臨済宗の開祖、臨済義玄の言行録にある。
その真意は、「人は如何なる所にあろうとも、置かれたその場で主人公になれば、そこに真実の人生がある」と言うことである。
「自分の人生はもともと自分が主人公なのだから、全ゆる場で、自分の本質、本領、信念を見失わずに貫き通せたら、それが主人公である。
主人公になつたら、場所を問わず、周りに気を取られたり、振り回されたりせずに、主体的に綿密に行動し、積極的に生きる事だ。そこに、無碍なる究極の人生が開けてくる」との考えである。
困難や試練のない人生や企業経営などありえない。それは誰もが経験する。
現実は厳しいに決っている。それらをどう乗り越えていくか。
人は誰でも、「此処ではない何処か」に憧れ、現実から逃れようとするものだ。
現実を直視し、原因をほかに求めるのではなく、また、他に頼るのでもなく、今いるその場所で、前向きに捉え、諦めずに努力し続け、常に自らの可能性を拓く事で、その時々の課題を解決し、状況を切り開いていく。
その積み重ねの上に、自らの人間性を高め、人材が育ち、経営力を磨いていく要諦が在る。どれだけの困難を乗り越えてきたか、乗り越えた困難や試練の大きさによって、人生や企業経営の価値が決ってくるのである。
この考えを基に、サンチェ―ン創業時、「サンチェ―ン精神四ヶ条」を創った。
「ひとつ・自分がやらねば誰がやる」
「ひとつ・今やらねば何時できる」
「ひとつ・返事と同時に行動せよ」
「ひとつ・24時間仕事と思え」と、社員全員で、毎日朝礼時に、唱和した事を懐かしく思い出す。
「誰かがやるだろう」という無責任な姿勢からは何も生まれない。
「自分がこの会社を建設する」という熱い思いと、皆が「今いる場所で、なくてはならない人材になろう」、そのために、「今日一日を、明るく目標をもつて戦い抜こう」との強い意志の表明であった。
これがある意味で、当時のサンチェ―ンマン達の仕事に対する闘魂と、組織のリ―ダ―としての資質を磨く事になつたと考えている。
どんなに会社が成長し、大企業になろうとも、社員の一人一人に、この闘魂の種を、末永く受け続けて欲しいものだ。
(その三)『商魂商才』
第三は、<商魂商才>の実践である。
私の一橋大学時代の恩師、藻利重孝教授は、本の読み方を厳しく指導された。
「著者の立場に立って、その言わんとするところを正確に理解するように読むことだ。それが論理的に考える事、物の考え方を鍛えることになる。」と、教えられた。
先生の教えは、『人生万般に通じる基礎、基本を身に付けよ』と言う事であったと思う。
今、「どうすれば、一人一人のお客様の立場に立てるのか」、「その欲するところを正しく理解する事が出来るのか」、が問われている。
藻利先生は、「経営学は企業の利益実現の方法を、理論的に解明するものである。利益は、企業が全力を尽くして始めて実現できる。
その際、企業は『士魂商才』ではなく、あくまで『商魂商才』に徹しなければならない」、と企業の実践的指導原理を示されたのである。
『士魂』が「さむらいの心」であるとすれば、その本質はお上への忠にあり、官僚の精神である。
殖産興業、富国強兵が国是であつた明治維新後の近代日本にあっては、『士魂商才』が極めて有効であったと思うが、21世紀の生活者主権・経済民主主義の時代には、全たく通用しない。
いわゆる町人国家の現代日本には、やはり『商魂』・「あきんどの心」でなければならない。「あきんどの心」とは、それぞれの地域に蜜着し、地域の人々の現実生活に根ざして、そのニ―ズとウオンツに応えるために、日々懸命に努力を尽くす、「商人の心」である。
ご来店くださる一人ひとりのお客様を本当に大切にする。
目の前に居られる一人のお客様に歩み寄り、語りかけ、親愛と信頼を深める個客重視の愛情を注いでいく。
あくまでも、今、目の前に居られるお客様に、最大の真心を尽くす誠実な応対の中に、お客様第一主義の真髄がある。
その上で、臨機応変、随縁真如の知恵を発揮するのが『商才』である。
21世紀の日本は、少子高齢化の進行と共に、世界で最も先進的な成熟社会を迎えている。
人々の価値観も、「モノ」から「サ―ビス」へ、そして『ひとのココロ』へと変化している。
成長市場も「商品市場」から「サ―ビス市場」へ、さらに、『感動市場』ヘと移りつつある。
従って、競争の軸も、「モノ・サ―ビス競争」から、『感動競争』へと変ってきた。
『感動競争』とは、『お客様の心を掴む競争』であり、『好感競争』、『親切競争』、『満足競争』である。
日々ご来店くださるお客様一人ひとりに、「どうすれば好感を買っていただけるのか」、「元気を買っていただけるのか」、「親切を買っていただけるのか」、をいつも真剣に考え行動していく事が求められる。
商売は、晴れの日もあれば、曇りの日、雨の日もある。晴れの日は晴れの日なりに、曇りの日、雨の日はそれなりに、何をするのか考えて知恵を出していく。それが『商才』である。
機に臨み、変に応じて最も価値的に商売していくことが『商魂商才』であり、大競争時代を勝ち抜く道である。
( 次回、(その四)『忘恩負義・報恩正義』に続く)
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