<コンビニ創業戦記・附伝>「鈴木貞夫言行録」第9回
2017/01/19
第四章「コンビニ時代」(その3)
――1976年(昭和51年)~2006年(平成18年)--42歳~72歳
サンチエーン・ローソンが合併して「ダイエー・コンビニエンス・システムズ(DCVS)」が誕生した経緯は、≪サンチエーン創業物語≫(第40回&第41回)を参照されたい。
合併以後に私が関わることになった歴史的プロセスは、一つに、急躍進で5000店舗を達成した「ダイエー・コンビニエンス・システムズ」時代(約6年間)と、二つに、社名を変更してダイエーグループの基幹企業となった「ローソン」時代(約6年間)、そして三つに、21世紀を迎えてダイエー救済のため株式上場して三菱商事グループ入りした21世紀初頭の「ローソン」時代(約6年間)の3つのステップに大別出来よう。
それぞれのプロセスについては、既に≪DCVS回想録≫で詳述しているのだが、漏れていたところを、私の言行録という視点で補足的に振り返ってみたいと思う。
《ダイエー・コンビニエンス・システムズ(DCVS》時代ー①
ーー1989年(平成元年)~1994年(平成6年)--55歳~60歳
この期間は松岡社長体制で、私は副社長であった。詳しくはDCVS回想録(第1回~第35回)を参照して頂きたい。出来るだけ重複しないように自身の記録資料を中心に回顧したいと思う。
『芝浦本社開設』
(DCVS新芝浦本社とロゴマーク)
(DCVS第1期新入社員入社式)
DCVSの発足は、サンチエーン・ローソンの本部機構を統合するための芝浦新本社開設からスタートした。
最初の1~2年は、社員同士の間に多少の戸惑いがあったのは事実であろう。だが、融合化していくのは時間の問題であった。
その間、新中期計画の策定などを通じて、一体感を強めていくことになっていくのだが、91年度からの「青空計画」のスタートはそれを決定付ける契機となった。
私も、会議や朝礼等の機会に、努めて社員の融合化、統合化に資する視点のスピーチを心がけたつもりである。
その幾つかを紹介したい。
『社内スピーチなど』
《 【DCVS ’89度9月度・拡大運営ライン会議・総括要旨 】
ーー’89年8平成 元年)9月5日・於笹川記念会館
【 新生DCVSとしての第1期の前半戦を終え、いよいよ下期のスタートである。
上期はサンチーン・ローソン統合化作業を推進し、POS導入をはじめとするシステムレベル向上が図られるとともに、加えて消費税導入が重なることで、皆さんには大変なご苦労をおかけした。心から感謝申し上げたい。
下期のスタートに当たり、私から一言お願いがある。
それは、最近特に深刻化しつつある労務状況の逼迫という問題についてである。
現状の人手不足問題はまことに急激であり、日本全国の全ゆる産業に於いて、人が集まらない状況が続いている。
企業によっては、プロジェクトの延期や研究開発の遅れなどが多発しているともいわれている。
問題は、現在の人手不足の現象が、好景気による一時的、循環的現象ではなく、社会構造的な長期的現象だということである。
われわれDCVSも、避けて通れないこの問題に、真正面からしっかりと取り組まねばならない。
環境変化への適応努力を業務改革と呼ぶならば、まさに真剣な業務改革が不可欠である。
CVS業界のこれまでの約15年余りの歴史を振り返るとき、マクロの視点で見れば、日本経済はいくつかの大きな危機的試練に見舞われてきた。
例をあげれば、1973年の石油危機であり、また1985年の円高危機である。
第1の石油危機に際しては、あらゆる産業分野で、省資源、省エネの業務改革が進められ、いわゆる軽薄短小化で、これを克服してきた。
この時期はCVSの業態としての誕生期に重なっている。これはいわば「モノ造りの業務改革」ともいえる。
第2の円高危機に際しては、内需主導型への転換という形で、いわば「カネ活かしの業務改革」、即ち、徹底したコスト切り下げ、合理化が現在猛烈に進行し、多くの波紋を起こしつつある。
今回の人手不足危機は、まさに第3の経済危機であり、「モノ、カネの分野」から、今や「ヒトの分野」にまで危機が及んできたということである。
われわれは、この人手不足の危機を何としても克服しなければならない。
だが、この人手不足対応の業務改革には、奇策や魔術はない。あくまでも王道を行くしかないと思う。
そのためには、原点に帰る、基本に帰る、即ち「BACK TO BASICS」 「BACK TO FUNDAMENTALS」しかない。
今一度、企業経営の原理・原則を明確に確認して、これに忠実に、地道な実践を積み重ねるしかないのである。
その第一は、商人意識の原点に立つこと=「FOR THE CUSTOMERS」の理念を深める
1・お客様の困っておられること、不便不満を解決して差し上げ続ける
2・DCVSならではの商品・サービスを提供する=この指とまれの商売を進める
3・フランチャイズ店舗網の拡大=ヒューマン・ネツトワーク・仲間・同志を増やす
第二は、「FOR THE STORES」を実践しよう
1・理想のフランチャイズ実現へ絶えざる挑戦を続ける
2・「お店はお客様のために、本部はお店のために」を徹底する
第三は、「FOR THE PEOPLE」を実践しよう
1・業界NO1のコーポレートカルチャーを築こう
企業は人間のために存在する。
人それぞれが持つ才能や資質を活かして伸ばし合い、ともに成長していく企業を目指そう。
2・「ハツピー・ワーキング」の社風を実現する
楽しく、面白く、働く意欲に、真正面から応えていける様々なシステムを持つ企業を目指そう。
この三つを提言したい。
どうか皆さんが、それぞれの立場で自分にできることは何かを考えて、本気で取り組んで貰いたいと念願する。 》
《 【 DCVS 「’89年(平成元 年)12月度・拡大運営ライン会議・総括要旨 】
ーー’89年12月6日・品川区民会館
新DCVS発足初年度の成果を左右する大切な年末年始商戦を迎え、全体方針については、ただいま松岡社長からお話がありましたから、私からは管理担当とい立場から、特に年末年始に集中的に発生する危険の多い犯罪事件の防止、即ち防犯対策についてご注意を申しあげ、店舗指導の徹底方をお願いしたい。
ご承知のように、店舗に於ける強盗や万引きなどの犯罪の発生は、チエーンのイメージ、お店の信用を大きく損ねるとともに、お客様の信頼感や働く従業員の安心感を著しく失わせ、業績にも、大きなマイナス効果をもたらすものである。
これが多発する状況が改善されないならば、CVSの社会的存在理由さえも否定されかねない、きわめて重要な問題となる。
加えて当社は、警視庁主導によるCVS防犯協会の会長企業であり、業界に於ける防犯体制の模範チエーンとならなければならない立場でもある。その意味で、次の防犯対策上の注意点について、皆さんの深い理解と積極的な店舗指導をお願い致したい。
第1に、「何よりも、予防が第一」ということである。
警視庁及びCVS防犯協会の調査によると、強盗などに襲われやすい店舗は、総じて「オーナーさん・従業員の防犯意識が低く、日頃のしつけの悪い店が多い」との結果が出ている。
1・お客さまの目を見て明るく挨拶する
2・売り場の整理整頓と清掃の行き届いたお店にする
3・従業員がキビキビと緊張感のあるお店
4・防犯機器などを整備充実する などを進めて
先ずは、お店の中の環境改善と従業員のしつけの徹底で、足元を固め、隙を作らないことである。
第2に、「その上で再発防止が第二」ということである。
お店のオーナーさん・クルーさんの生命・身体の安全を基本に、犯人のスピード検挙に協力するために、「防犯マニュアル」に沿って、冷静に対応していただくことであろう。
皆さん方に、訪店時の対話を通じて、オーナーさん・クルーさん一人ひとりに、繰り返し繰り返し、熱意ある指導を積み重ねて頂きたい。
「継続こそ力なり」という。良い習慣作りの指導を重ねてお願い致します。 》
《 【DCVS '91年(平成 3年)度・期首全体朝礼・スピーチ要旨 】
――’91年3月4日・於芝浦本社
【 DCVS第3期の91年度がスタートした。春一番も吹き本格的春の到来である。
昨年8月以来、世界的に重く圧し掛かっていた湾岸戦争もようやく終わった。新入社員も入社してくる。
新しい時代の夜明けの予感がしている。
愈々「DCVS・95年ビジョン」へ向けて、新三カ年計画・「ローソン青空計画」がスタートした。
ローソン青空計画は、「真の一流企業への大飛躍計画」であり、「真の理想的フライチャイズ・チエーン実現計画」である。
そのための企業文化の全社的な変革運動であり、一店一店の加盟店が、それぞれの「街の青空ほっとステーション」となるとともに、それぞれのお店にとって、他のどのチエーンよりも信頼と安心と満足が得られるチエーン本部を築いていくことが、青空計画の基本目的である。
「青空のほっとステーションつくり」は、先ず、「青空の本社つくり」からは始まる。
本社・本部が先ずは「青空つくり」の出発点、発火点であり、エンジンとならなければならない。本社・本部から、DIV,DR,SVへと波及し、お店へ浸透していくのである。
青空の本社・本部とは、現場、お店、加盟店のためにオーナーさん・クルーさんのために何を為すべきか、何が出来るのかを常に考えながら、毎日の仕事に取り組んでいる本社・本部のことである。
これは、何か今までやっていない全く新しいことをしよう、ということではない。
青空計画の基本スローガンである「ACTION ON THE BASICS」とは、当り前のことをキチンと確実に実行することから始まる。
具体的には、三つのポイントがあろう。
一つは、日常のルーテインワークに於ける「単純ミスの絶滅」「クイック・レスポンスの実践」「期限・約束の厳守」などである。
二つは、作業の仕組みの改善改革である。
より楽に、より分かりやすく、より効果的に小さな改善を積み重ねることである。
三つは、社員マナー・エチケツトの向上改善である。
接客応対、TEL応対、社内応対などの基本レベルを飛躍的に向上させねばならない。
これだけで企業イメージは大きく変わるものである。
そして四つは、青空の本社・本部つくりのキーパーソンは、ミドルマネジメントの皆さんである。
戦略計画をいくら立派に作っても、それだけでは仏作って魂入れずである。
高度情報化社会、コンピューター万能の時代となればなるほど、人間の情熱や情愛が大切となる。
スキンシップのハート・コミュニケーションで、上司と部下、人と人との心の共鳴を生み出すことである。
青空計画の成否は、本部と現場、本部とお店、上司と部下の情熱の掛け算に比例してくると思う。
戦略情報を共有することを通じて、心の共鳴を生み出すことが、人間の潜在的能力を飛躍させるのである。
ミドルマネジメントの皆さんは、どうか部下の話をよく聞いてもらいたい。
それをしているかどうかで、一流と二流は分かれるという。皆さんの熱意あるご活躍を期待する。 》
(ローソン社内報「青空」・青空計画推進号より)
《 【DCVS’92年(平成 4年)7月度・全体朝礼・スピーチ要旨】
--’92年7月13日・芝浦本社
上期の山場、夏季商戦の本番であるが、日々時代変化の激しさ、環境激変を痛感している。
7月に入って、国内外のトピックスが三つある。
一つはミュンヘン・サミットの開催、二つは参議院選挙、三つはDCVSのダイエ―グループ中核会社化である。
この三つは、一見無関係に見えるが本質的には共通点がある。
即ち、世界経済に於ける日本経済への期待、日本経済における流通の役割の増大、流通に於けるダイエーグループの役割そしてダイエーグループに於けるDCVSへの期待との連関であるからだ。
思い起こせば、一年前の夏季商戦は向かうところ敵なしの勢いがあったと思う。それがいま様変わりしているように見える。個人消費の低迷、天候不順などの要因もあるが、CVS業界がかって経験したことのない厳しさを感じる。
しかし、これが正常と考えねばならない。
壁にぶつかった時は、原点に戻れという。商売の原点は、お客様のニーズ・ウオンツの変化に対応することである。
お客様が変化しているのに、我々が適応できていないことが伸び悩みの原因である。今こそ、お客様との接点である店頭現場を、もう一度じっくりと観察することから始めるこべきである。
何がどんな買われ方をしているか、、お客様の関心や商品選択のポイントはどこにあるかを掴む努力を積み重ねることである。我々が売ろうとするものを売るのではなく、お客様がほしいと思うものを売ることである。それにはお客様をよく見詰めること、観察することである。
世界最大の小売業となったウオルマートのサクセスの原因は二つあるという。
一つは、CS(お客様満足)のて徹底的追求である。表面的なお客様志向ではなく、「CUSTOMERS DRIVEN]という思想に徹し、行動原則としていることである。
「お客様の声を聞く」「お客様に学ぶ」「お客様に導いてもらう」努力の積み重ねである。
「ローソン青空計画」とは、お客様に学ぶ運動である。
二つは、人間・従業員が主役であるということだ。
オーナーさん、クルーさんの心をどうやって燃やすか、壁を破るエネルギー、精神的力を引き出すかである。
一対一の対話、一人一人の気持ちを掴む努力が求められている。今こそお客様をじっと見つめよう。 》
《 【DCVS’92年度(平成 4年)度・商品統轄本部方針確認会・総括要旨】
ーー’92年2月14日・於ホテル高輪
92年度の全社方針は、「青空計画の継続深耕=ACTION FOR THE HOT STATION」である。
青空計画は、チエーンイメージ向上を通じて実体を創り上げていく闘い、即ち、お客様満足を向上させ、ローソン店舗を地域の生活インフラ化していくことで業界トップのポジションを目指すものである。
この闘い中での商品統轄本部新体制の役割は、一言でいえば、マーチャンダィジングに於ける絶対的優位性の構築にある。
そのためには、DCVSとしてのマーチャンダィジング・ポリシーの明確化が不可欠であり、その上でDCVS・ロジスティクス・システムを組み立てなければならない。
我々には、今こそ「マトリックス・マネジメント」が必要だと思う。
「マトリックス・マネジメント」とは、「深さ=DEPTH」と「広さ=WIDTH]の同時追及である。
「深さ」とは、品質・味などへの専門性を深めること、モノの科学性の追求であり、「広さ」とは、見識、思想、コンセプトなどココロの哲学性の追求を意味している。
DCVSのクリエイティブラインとして、DCVSの情報創造チームとして、全員参加、縦横の壁を越えて、グループディスカッションの積み重ねで、共通・共有のトータル・マーチャンダイジング・コンセプトを明確化すると共に、その絶えざる見直しを繰り返してもらいたい。
見直す基本キーワードは、「お客様にヤサシイか」「お店にヤサシイか」「環境にヤサシイか」であろう。
それには、原点からの再確認が必要である。
先ず第一は、用語の共通の意味を再確認することである。
第二は、市場の変化を読み、「TODAY’S CONVENIENCEの絶えざる追求」である。
第三は、個店のデータと個客のデータをどう読むか
第四に、コンビニの限られた売り場で最適品揃えを実現するには、「絞り込み」をどうするか
お店にご来店くださるお客様は、買ってみて、食べてみて、使ってみて、はじめて本当の便利さ、良さを理解して下さる。
そして信頼し、繰り返し買って下さる顧客となる。
その日々の積み重ねが購買頻度の向上、来店客数の向上へとつながるのである。
わが社の精鋭頭脳集団として、ますますの活躍を期待している。 》
(商品本部方針確認会・議事次第)
《 【DCVS’93年(平成 5年)6月度・西日本運営ライン会議・総括要旨】
--’93年6月29日・千里・協栄生命会館
流通激変の時代を迎えての夏季商戦に臨み、みんなが元気に、楽しく、勢いよく闘ったいただけるような総括をしたいと思う。
今、日本経済は、深刻な消費不況が進行し、政治も経済も、企業も個人も、あらゆる存在が、生きるか死ぬかのリストラを求められている。
その中で倒産していく企業に共通する原因は、一言でいえば管理型企業で、その特徴には
①・危機感の不足、②・状況認識の甘さと誤り、③・社内だけに目が向いている、④・現象対応で後手を踏む、⑤・惰性の経営などがあるという。
これに対し、不況下でも伸びる企業の条件は、戦略型ビジョン型経営であることであり、その特徴は、
①・挑戦精神に富む燃える組織を目指す、②・理念と戦略を共有し深化させる、③・簡素な組織で決断を早める、④・個人の個性と集団力を調和させる、などであるという。
DCVSも、戦略的ビジョン経営を目指して、現状に甘んじているわけにはいかない。
この夏季商戦の勝利の要諦は、
第一に志を高く、攻めに経営に推進すること。
意志のあるところ、必ず道は開けるものだ。
第二に、コンビニの本格的発展のステージはこれからである事に確信を持とう。
コンビニ業態の持つ潜在的可能性はまだまだ進化の途上にある。そして、フランチャイズ・ビジネスの経営民主主義の特性を生かすことが決め手である。
第三に、不況は進化の母であり、不況の時こそ逆転の好機である。
今こそ「お客様に学ぶ」、「お店に学ぶ」の精神を奮い立たせる時である。
お店が奮い立てば、必ずお客様が増える。
お店を奮い立たせるには、先ず営業ラインの我々が、本気になって奮い立つことである。
我々が奮い立てば、必ずお店が奮い立つ。
いよいよ明るく、楽しく、勢いよく、元気に奮い立つ店舗指導をお願いしたい。 》
(運営ライン会議・議事次第)
次号では、DCVS時代の講演活動やマスコミ取材などについて振り返りたいと思う。
以下次号、「鈴木貞夫言行録第10回」に続く.
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