第328話 年越蕎麦

     

「年越蕎麦の由来は?」なんていう質問が年の瀬になると必ずくる。皆さんはQ&A方式に正確な回答を求められるが、民間伝承、あるいは歴史文化というものは科学ではないから、なかなか明解に答えられないところがある。
だから、年越蕎麦は「細く長くという縁起物が定着したぐらいに考えた方が一番正しいと思う。
「そんなあ・・・!」とお思いの方は、正月の「お飾り」を見ていただきたい。
「縁起物」として一つひとつに「意味がある」とよくいわれるが、「意味」というよりも「ユーモア」といった方が分かりやすい。

門松 = 待つ ⇒ 祀る。
鏡餅 = 重ね餅 ⇒ 重ねる。
橙 = 代々繁栄する。
扇 ⇒ 末広がり。
串柿 = 嘉来 ⇒ かき集める。串柿は四方の外に2個、外に6個飾る ⇒ 外はニコニコ、仲睦まじく。
白一色の御幣(四手) = 四方に手を広げる。
海老 ⇒ 腰が曲がるまで。
裏白 ⇒ 清廉潔白を表す。左右対称は夫婦円満。
昆布 = 子生 ⇒ 喜ぶ。
スルメ = 寿留女 ⇒ 嫁ぎ先に留まる。

仲間の谷岡さん(江戸ソバリエ)が、よく「笑門来福」のコピーを使われているが、まさにその心だと思う。

さて今年も、その縁起のいい細く長い《年越蕎麦》を頂いた。
深大寺の蕎麦店「門前さんから、戸隠産《蕎麦切》を戸隠の辛味大根一本付で。
「武蔵の国の蕎麦打ち名人戦」の安田実行委員長からは、《へぎ蕎麦》と《信濃1号蕎麦》。
《へぎ蕎麦》は更科粉だけを使用すれば緑のきれいな蕎麦切になるけど、布海苔に負けるから、ひすいを1割、信濃1号を2割加えて打ったという。
新発田の蕎麦店「一寿さんからは、新発田産の《ダッタン蕎麦》と《二八蕎麦》を山葵一本付で。
こんなにめでたい縁起物を頂く幸せをしっかり味わいながら、平成27年の大晦日の日に、来る申年を迎える次第である。

〔江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる