食の今昔物語 10月編 たまご酒は効きますか?

      2016/10/10  

十月・・・たまご酒

 十月も半ば近くなると朝夕の冷え込みが一段と気になり始めます。ちょっと油断舌隙に、風邪をひき始めるのもこの時期です。風邪の引き始めというと今もって「たまご酒」を作って飲んでいる方が多いようです。 

 そんなたまご酒愛用者にお聞きしたことがあります。

「たまご酒は風邪の引き初めだと本当に効きますか?」

「うん、すごく効きますよ」

「本当はお酒が飲みたいだけではないのですか?奥様に酒ばかり飲んで!と言われるので、風邪を引いたからと言って堂々とたまご酒を飲んでいるのではないですか?」

「・・・・・」

 1970年(昭和45年)以前のたまご酒は、本当に初期の風邪には効いたのです。その理由は・・・。

 風邪の引き初めの療法は、栄養分を摂って体を温めることです。たまごという栄養分たっぷりの食べ物を食べ、ホットにしたお酒を飲み、体を温める。しかも卵白には量的にはわずかですが、リゾチームという細菌細胞を溶解する作用を持つ酵素成分も含まれています。それより何よりも、初期の風邪に最も効果があったのは当時の日本酒に使われていたサリチル酸という成分です。このサリチル酸は品質保持の目的で日本酒に添加されていました。 

 加えてこのサリチル酸は、鎮痛解熱効果のある成分として薬にも使われています。従って風邪かなと思ったとき、早めに体を温め、栄養分を摂り、鎮痛解熱剤を飲んでいたので良く効いたのです。

 では今のたまご酒はどうなのでしょうか。まずたまご酒というからには、酒は日本酒と断言できますよね。どなたもたまごホット焼酎、たまごホットワインなどと考えていないようです。だとすればたまごという栄養分、ホットで体を温める点までは昔と同じです。最も肝心な鎮痛解熱効果はどうでしょうか。

 残念ながら全く期待できません。なぜなら幅広く使われてきた食品添加物としてのサリチル酸は、1973年(昭和48年)に使用禁止となってしまったのですが、酒造組合中央会は、1969年(昭和44年)に他の飲食業界よりいち早く使用自粛声明を発表し、国の使用禁止令に先駆けて日本酒への使用を一切しなくなったのです。

 堂々と日本酒を飲む理由として「風邪を引いたようだ」と言っていた方には申し訳ないのですが、このような理由で、当今のたまご酒が初期の風邪に、特別に効くわけがないのです。酒好きのお父さんが、子どもが風邪気味の時たまご酒を作るのも、子供が飲むのを嫌がるのでもったいないと言って自分が飲むというシーンは、だんだんと通用しなくなることでしょう。

 ところで外国にも初期の風邪に対応するメニューがあります。それはチキンスープです。鶏肉に含まれる「カルノシン」という成分が風邪に効果ありと言い伝えられています。チキンスープには免疫を整えるニンジンなど多くの野菜が使われるそうです。 

 %e3%81%9f%e3%81%be%e3%81%94%e9%85%92たまご酒の代わりにチキンスープを薦めたら、本当はお酒が飲みたかっただけのお父さんは、どんな反応を見せるのでしょうか。