第391話 オーガニック ライフスタイルから

      2016/12/20  

= 正気の循環を =

「第1回オーガニックライフスタイルEXPO」― 知人から「わが社も出展しているから来てほしい」とお誘いいただいたので覗いてみた。
会場は、有楽町の国際フォーラム。よく、ビジネスショウは幕張メッセとかで開催されるが、この度は近かったので楽だった。
出展団体数は150社ほど。「・・・ライフスタイル」と題しているだけあって、ブースは食・衣・住・健・学のあらゆる分野にわたっていた。
その各展示には、今様の用語で溢れている。すなわち、
◎食材のブースでは、有機JAS認証、在来種野菜、安心安全、地産地消、土づくり、オーガニックレストラン・・・。
◎衣料のブースでは、オーガニックコットンやシルク・・・。
◎住のブースでは、ベランダ菜、園屋上緑化、省エネ、再生エネルギー・・・。
◎健康のブースでは、アレルギー配慮型、ヨガ、お茶、スムージー・・・。
◎化粧品のブースでは、ナチュラルコスメ・・・。
◎学びのブースでは、子供たちの農業体験、エコツーリズム、食文化講座・・・。

スゴイ! 佇んでいるだけで、新潮流を感じるが、言葉だけで終わることなく、ズッと本物であり続けてほしいと願いつつ、見て回った。

ところで、偶々であるが、先日までサンフランシスコに住む知人が来日していた。その知人は関根絵里さんといって、『CALFORNIA ORGANIC TRIP』を著したフードジャーナリストである。
彼女は著書で、こう述べていた。

― オーガニック シティへようこそ ―
― アメリカの食文化を変えたアリス・ウォータース ―
― サンフランシスコがオーガニック食文化の先端といわれる由来は、1971年、アリス・ウォータースがオープンした、『Chez Panisse(シェ バニース)』から始まる。アリスは自然と調和した生活を唱え続けてきた女性シェフで、〝ローカル、シーズナル、オーガニック〟のコンセプトを元にシンプルな料理を考案、それが今の「カルフォルニア料理」と呼ばれる根源になっている。・・・・・・ ―

この著書の関係から、「オーガニック」についての講演を数箇所から依頼されての来日であった。
私は、この会場に彼女がいてくれたら、もっと勉強になっただろうと残念に思った。

それはそれとして、今日大変驚いたことがあった。
来訪者の中に、幼児を抱いた若いママさんを何組も見たのである。
これまでのビジネスショウではありえない光景であった。
不思議に感じながら、「そういえば」と思い出したことがある。それは近くに住んでいる若夫婦に聞いた話であった。
2歳になるお子さんを連れての家族ぐるみの外食のときだったらしい。その児は、ある食べ物を口に入れたとたん、食べ物をすごい勢いで吹き出した。と、見る見るうちに唇が二倍ぐらいに腫れたという。
青くなったママさんは慌ててその児の口に指を突っ込み、入っていた物を全部取り出し、おしぼりで丁寧に顔を拭いたりしてやったが、生きた心地がしなかったという。後になって見てみると、食べ物の中に細かくなったナッツが入っていた。食べる前に見たけれど分からないほど小さな物だった。

そもそもが、食べ物というのは薬でも何でもないから、効能効果云々といってもたいしたことはない。たとえば、「○○は血圧にいい」といっても、効果を期待するためには山ほど食べなければならない。それが食材というものである。
であるのに、この児の場合はどうだろう。まるで毒物を口にしたときのようである。いっそのこと毒というなら分かる。たとえば毒キノコなんかは万人に毒という物である。しかし、この場合はこの児だけ。これを「食物アレルギー」という。
困ったことだ。
そういう時代だから、ママさんたちが、展示場に来ているのだろう。
こんなことは、われわれの世代にはめったになかった。
となると、「こんな世の中に誰がした」と問われれることになり、「われわれの世代である」と答えざるをえない。
そうすると、次に問われるのが、「われわれ世代とは何か」ということだ。それはおそらく「経済成長だけを求めてきた世代、あるいは謳歌した世代」ということになるだろう。
経済成長 ― それはそれで必要であった。しかし「・・・だけ」という言葉が付いている場合、それは今の言葉でいえば「・・・依存症」ということにちかい。
だとしたら、考えなければならない。あのママの世代やあの児の世代のために、われわれはどうすればいいか! を。

サンフランシスコに住んでいる関根さんが、もうひとつ云っていた。日本に来て異様に見えたのは、皆が皆レジ袋を持って歩いている姿だと。
また、他の人も言う。駅のホームや電車の中の人が皆、スマホに熱中しているのは怖いくらい異常に感じるとも。
これらも現代の依存症である。言葉を換えれば、それが時代の狂気である。

そのことに気付けば、あの「スローフード運動」のスピリットも、鎌倉時代の道元が『赴粥飯法』の中でとうに述べていたことを思い出すだろう。
そう、日本人の遺伝子は〝正気〟というものをちゃんと宿しているのである。
だから、それを取り出し、次世代へと循環させようではないか。

《挿絵》
ナパのワイン・トレイン
《参考》
第1回オーガニックライフスタイルEXPO (平成28年11月)
ELLI SEKINE『CALFORNIA ORGANIC TRIP』(ダイアモンド社)
道元『典座教訓 赴粥飯法』(講談社学術文庫)

〔文・絵 ☆ エッセイスト ほしひかる