第392話 チョコレートは夢と出会う

     

先日、ペルーへ行ったソバリエさんから、お土産にペルーのチョコを頂いた。
中南米といえば、チョコレートの原産地であり、また彩色土器が素晴らしい所であるので、土器に関心をもっている私としては憧れの地である。
しかしながら、なにしろ遠い。行くのも簡単ではないから、この度のお土産の匂いに接しながら、幻でも見ていよう。

ところで、チョコレート(カカオ)は、コーヒーと共に、ノンアルコールの世界三大嗜好飲料といわれている。
そのうちの、茶は中国南部山間地が原産地、コーヒーはエチオピア、そしてカカオは、a) メキシコ湾岸に前1500年~前400年に栄えたオルメカ人や古代マヤ人、アステカ人が飲んでいたという。b) それが16世紀ごろスペインに伝わった。
そのころ、カカオは砂糖と出会って、チョコレートという夢のお菓子に変貌し、ヨーロッパ全土に広がったことはもう十分知られていることである。
そのチョコレートの工程は、収穫、発酵、焙煎、風撰、磨砕と複雑である。
それをたとえば、バンホーテン社、キャドバリー社、フライ社などがクリアして世界のチョコレートとなった。だから、ヨーロッパ旅行に行った人たちからもヨーロッパ各国のチョコレート度々お土産にいいだくことも多い。
そんなチョコの歴史を夢物語に仕立てたのが『ショコラ』という映画だろう。

でも、考えてみると、この伝播式は何かに似ている。
そう、蕎麦だ。
a)中国大陸の四川・雲南地区を発祥し、b)大陸を北進して朝鮮半島へ伝わり、キムチ汁と出会って《冷麺》となり、さらには日本列島へ上陸し、鰹出汁と出会って《江戸蕎麦》へ変貌した。
そんな具合に、蕎麦もチョコに負けぬくらいの、遥かなる旅を続け、そして何かと出会って、あか抜けていく。
まさに、〝出会い〟というのは人間を変えるばかりではなく、物と物の出会いだって、夢に変えてくれるのである。
同様にして、変わった物はまだある。キムチ+唐辛子も、パスタ+トマトも出会って革命的に変貌した物の一つだろう。
食材はというものは、原産地を離れれば離れるほど、出会いのチャンスに恵まれるようである。その結果〝食文化〟はみがかれていくことになる。

《写真》
・「REPAUBLICA DEL CACAO」

《参考》
・ラッセ・ハルストレム監督『ショコラ』(2000年)、

〔文・写真 ☆ エッセイスト ほしひかる