第417話 饂飩三本、蕎麦六本
「蕎麦の食べ方」について、テレビ局の撮影に協力することがある。
そんなときには、「昔から、風情よく 口に運ぶに ほどよくは 饂飩三本 蕎麦六本といわれているように、蕎麦六本ぐらいが啜る量としてはちょうどいいんですよ。」などと説明する。
ところが、ある局でのことだった。小道具さんが蕎麦麺を全て、6本ずつにまとめて、まるで《へぎ蕎麦》のように並べていた。
驚いた私は「少しバラしたら」と申上げたが、ディレクターに言われたからと拒まれた。
テレビ界というのは、プロデューサーやディレクターの指示は絶対のようである。
実は、私もディレクターさんに弱い。だからテレビ出演が苦手である。理由は決まった台詞を喋るのが辛いからである。自分が考えたことを講演するのは何ともないが、台詞を暗記して喋るのは勘弁してほしいというのが本音である。
だから、「どうしたらいい?」と友人の俳優に訊いたら、「個性を大事に、一に声、二に姿、三に芝居」と教えてくれたのはよかったが、それでますます喋り方が重要だと知って、なお負のスパイラルに陥ってしまった次第である。
さて、撮影が終わった数日後、六本木の『蕎麦六本』という蕎麦屋さんから、協会サイトに掲載している【英語版:お蕎麦の食べ方】を使わせてほしいという連絡があった。
場所柄、外国人のお客さまが多いのだという。
さっそく訪ねて店内を見ると、飾ってある絵にこう描いてあった。
風情よく 口に運ぶに ほどよくは 饂飩三本 蕎麦六本
それにしても、六本木だから『蕎麦六本』とは、いいところに目を付けたものだ。
これからも「食べ方」の話をすることになるだろうが、お店の『蕎麦六本』のこともプラスして話すことになるだろう。
〔文・挿絵 ☆ 江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる〕