第419話 朝のガレットと黄色い薔薇
北杜市の蕎麦祭りで「蕎麦の話をしませんか」と誘われて、昨夜遅くこのロッジへやって来た。
朝起きると、南アルプスの頂上は霧につつまれていたが、すぐに青々と晴れ渡り、麓の草原が緑に広がった。
食堂へ行くと、美味しそうな匂いが漂ってくる。
メニューは《朝のガレット》と野菜サラダと、飲物は牛乳か、グレープ・ジュース、コーヒーはご自由に、ということだった。
「《朝のガレット》って何?」と尋ねると、「スクランブル・エッグをガレットで包んだもの」と料理担当の女性の人が笑顔で説明してくれた。
聞けば、昼は《昼ガレ》、夜は《夜ガレ》もあるという。《昼ガレ》はアイスクリームを包んでいるし、《夜ガレ》はステーキだとのこと。
「なるほど」と、笑顔には笑顔で納得した。
爽やかな山麓で口にするグレープ・ジュースは酸味があって甘くなく、野菜サラダは香りが美味しく、メインのガレットは温かさが美味しかった。
私は、理由もなく山梨はガレットが似合う所だと思った。
ふと見ると、テーブルの奥には、花瓶からこぼれ落ちるほどにたくさんの黄色い薔薇が活けてあった。
あの黄色い花と手元のスクランブル・エッグの取り合わせが妙にしっくりいっていたが、それ以上にフワフワ・フルフルした黄色いスクランブル・エッグの平和な感じを高原の朝に食べられることが嬉しかった。
〔文・挿絵 ☆ エッセイスト ほしひかる〕