2021年年頭所感 キリンビール 布施孝之社長

      2021/01/01   執筆者:編集部

年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。 また、旧年中のご愛顧と格別のご支援に心から厚く御礼を申し上げます。昨年は、100年に一度と言われる新型コロナウィルスの猛威により、世界的に経済・社会が大きな打撃を受け、急激な環境変化に直面した個人や企業は、その変化に如何に対応していくのかを模索し続けました。国内経済は、緊急事態宣言や営業自粛・外出自粛要請で大幅にGDPが低下した4~6月期を底に、政府によるGoTo事業などの様々な経済対策が実施されたことを背景に、緩やかに持ち直しの過程にありますが、GDPギャップは依然大きく、本格的な回復はまだ見通せない状況です。昨年末からはコロナウィルス感染第3波も発生し、本年も引き続き「ウィズコロナ」環境での変化対応や挑戦が求められると思われますが、一刻も早くコロナ禍が終息し、新たな「アフターコロナ」ステージが 開けることを願っています。一方、コロナ禍は、社会の行動様式やお客様の意識に大きな変化を促しました。「リモート」活用の拡大による就労・就学環境の変革、いわゆる「巣ごもり」と称される消費形態の出現、外出自粛を背景にした健康志向の急速な顕在化、低価格志向と付加価値を重視する志向が併存する消費の二極化の進展などは、今後の事業展開を考える上で非常に重要な要素になってくると考えています。酒類業界をみますと、やはりコロナ禍の影響が色濃く反映されました。外出自粛や営業自粛の影響を直接に受ける飲食関連市場は、売上・利益ともに大幅に減少する大変な状況に直面していて、大いに心を痛めています。このため、同市場向けのビール大樽・壜商品や洋酒は大幅に縮小していますが、巣ごもり消費を背景とした家庭用市場は堅調で、ビール類缶商品やチューハイ・ハイボール等のRTD商品は順調に推移しています。ビール類市場全体をみますと、飲食関連市場の減少分を家庭用市場では十分に吸収しきれなかった他、RTD・ハイボール等へのカテゴリーシフトも継続したことで、残念ながら2005年以来16年連続の対前年割れが確実な情勢となっています。このようなコロナ禍に翻弄される不確実な状況の中、当社は従来からの行動指針である「お客様のことをどこよりも一番考えて、お客様に寄り添う」マーケティングや営業活動を一貫して実践し、お客様の本音やインサイトを的確に把握してお客様の要望や困りごとに果敢にかつ柔軟に対応することに努めてきました。ビール類においては、昨年10月に、日本で初めてビールでの糖質ゼロを実現した 「キリン一番搾り 糖質ゼロ」を発売しました。当社独自の一番搾り製法による「澄んだ麦のおいしさ」と「糖質ゼロ」を両立させ、お客様がビールカテゴリーに期待する新しい価値を実現したことで大変なご好評をいただいており、当社のフラッグシップブランドである「キリン一番搾り生ビール」等を含めた一番搾りブランド全体の缶商品計は、10月以降大幅に前年を上回り、年間でも対前年プラスを確保できたと思います。また、昨年に発売3年目を迎えた「本麒麟」も、新ジャンルの価格帯で「ビールに近いうまさと品質」を備えた商品としてお客様のますますのご支持をいただき、年間で  2,000万ケース(大壜換算)規模の大型商品に成長しています。「ビール市場の魅力化」を目指して注力するクラフトビールに関しては、少なからずコロナ禍の影響を受けることとなりましたが、「クラフトビールをカジュアルに身近に楽しんでいただきたい」との想いで展開している「タップ・マルシェ」は、飲食店の 方々から「お客様に楽しんでいただける付加価値の高い商品を提供できる」との評価も  いただき、昨年の新規設置目標の6,000店を達成することができました。当社のビール類全体は、コロナ禍の影響もあり、前年を割り込むこととなりましたが、一番搾りブランドや本麒麟の好調が牽引した家庭用市場を中心とする缶商品合計では、前年を上回って、一定の成果を収めることができたと思います。伸長カテゴリーであるRTDは、市場の拡大とともに競争の激しさが増しています。 当社主力ブランドの「氷結®」は、2001年発売以来のコンセプトである「みずみず しい果汁感と爽快なあじわい」に一層の磨きをかけてブランド価値の強化を図りました。おかげさまで、昨年11月上旬には発売以来の累計販売本数が150億本(250ml 換算)を突破することができました。昨年4月に「麒麟特製サワー」として生まれ変わった「キリン・ザ・ストロング」は、その「うまさ」と「上質感」に大きなご支持をいただき、大幅に伸長しています。また、昨年10月には、当社RTD商品で初めて「麹」を使用して丁寧に「うまみ」を引き出した「麹レモンサワー」を発売しましたが、素材感や付加価値に注目が集まり、大変なご好評をいただいています。この結果、当社のRTDカテゴリー全体は年間で対前年2ケタの伸びとなり、市場の 勢いに負けないプレゼンスを発揮できたのではないかと考えています。洋酒カテゴリーについては、コロナ禍の影響で苦戦しましたが、重点ブランドである「ジョニーウォーカー」「ホワイトホース」の両スコッチウィスキーは、ハイボール需要を背景に家庭用市場で販売を拡大したことで、前年プラスと順調に推移しています。さて、本年についてですが、未だコロナウィルス感染の終息が見通せない中、引続き様々な環境変化への柔軟な対応が必要になってくると思います。そのような中、当社は、お客様のことをどこよりも一番考えてお客様に寄り添い、お客様の本音やインサイトを的確に射抜き、お客様の要望や困りごとに事業として果敢に対応し解決していく、そして自社も一緒に成長するというCSV経営を一貫して実践し、お客様に信頼・支持される ブランドを構築していきたいと考えています。昨年後半に、一部地域でテスト展開を開始した2タップタイプの新たなサーバー「TAPPY(タッピー)」は、商品ロスが少ない、 おいしいビールが飲める、手軽なオペレーションが可能という飲食業界の困りごとを解決する新たなビジネスモデル提案の一例だと思っています。また、加速する消費の二極化の内、特に付加価値を重視する志向への対応については、将来に向けて酒類業界をブルーオーシャンに変革していく意味で重要だと考えています。例えば、ビール業界を例にとると、1994年に市場がピークを迎えましたが、現在は その4分の3程度にまで規模が縮小しています。当社としては、その間、価格や規模を 追いかける一方で、「ビール類をもっと魅力的に」という姿勢が弱かったのではないかと反省しています。これからは、お客様が求める新たな価値を次々と提案し、ビール類を はじめとした酒類全体をお客様にとってもっと魅力のあるものにしていくことが、次なる時代に向けて非常に大事であるとも考えています。コロナ禍をはじめとして、酒類業界を取り巻く環境は本年も厳しい状況が続くと予想 されますが、当社は常に「お客様に一番愛され、信頼される会社」になることを目指して挑戦を続け、酒類総需要の拡大、そして業界の発展に向けて邁進していく所存ですので、皆様からの一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。末筆ではございますが、新しい年が皆様にとって輝く素晴らしい一年となりますよう心からお祈り申し上げ、年頭の挨拶とさせていただきます。令和3年(2021年)1月吉日。