第719話 栃の木やさん
2021/07/01
栃の木やさんが、令和3年6月で休店された。蕎麦店としては3年経過したときだった。理由はコロナ禍によって営業が難しくなったうえに家賃負担が厳しかったためである。昨年から聞いていたが、コロナ禍では皆さんに「来てください」と声も掛けられずに、独りで顔を出していたが、あまり足しにはならなかった。
そのうちに休店の話が伝わって、「どうして食い物屋さんだけが犠牲にならなければならないのか」と嘆く声や、「クラウドファンディングで何とかしてあげられないのか」という叱咤を頂いたが、私自身がクラウドファンディングというものをよく分っていないから、その方には「う~ん!」と唸っただけだった。
というのも、昨年、このクラウドファンディングを利用した商店街があって、そのなかの知り合いの蕎麦店さんから少し助けてほしいと言われたので、参加してみた。ニュースで採り上げられて、うまくいっていると報道していたが、要するに先に数回分の食券を購入するみたいなもので、果たしてどのくらい知人の蕎麦店の応援になったかどうか、よく分らない。その後、クラウドファンディング運営会社から、いろんなメールが来るようになったりしているが、要はネットだけの関係で本当に支援になるのかどうか、私にはよく全貌が理解できないのである。だからこの方法に積極的になれなかった。
そんなとき、ある蕎麦屋さんから政府に時短関係の陳情に行くから参加してほしいと誘われたので同行したが、営業を19時までとか、20時までとかの問題を延々と話し合うのである。が、わずか1時間の差よりも、1日でも早くコロナを鎮静させるのが先決だろうと思ったのが感想だった。そのこと自体は今も正しいと思っている。しかし帰りの電車でその蕎麦屋さんが言うことには、「ビール1本注文があるか、ないかで大きいのですよ」と言われて、蕎麦屋さんにとってみれば、1時間の差も大きいのだと反省もした。
そうすると、また戻ってやはり「どうして食い物屋さんだけが犠牲にならなければならないのか」ということになる。
だから、某党が言っている「コロナ禍は人災だ」という主張は当たっているように思える。
ところで、一般的に私たちは、身体の変調を感じたら、医者に診てもらいに行く。医者はすぐ検査して病因を調べ、適切に治療し、必要とあれば入院を促す。患者が仕事があると言えば、仕事より治療が優先だと説得する。また、もし感染症の疑いがあれば保健所へ連絡して拡大しないように水際対策をとることが肝要だ。これが常識だろう。
しかし、この度のコロナ騒動においては、政府の大臣や自治体の知事たちは、即刻「医療崩壊の恐れがある」と言って、不安市民が希望するPCR検査や、陽性患者の入院治療を阻んでしまった。そして日本でこれまで見られなかった新・感染症の場合の本当の「移らない移さない」は水際対策であるにもかかわらず、「市中感染」を繰り返し、まるでしぜんに雨や雪が天から降ってきたように言うだけで、素人丸出しの無策だった。
病の場合は、①検査、②受診・入院、感染症の場合は水際対策。医療界にいる者なら誰でも分る単純なことだ。だから、小生は昨年からそう言ってきた。
NYからやって来たソバリエさんも、サンフランシスコから来日した友人も同じことを言ったその日のテレビニュースでは、相変わらず「しっかりした水際対策を行っている」と報じていた。なぜかというと「しっかり」とか「安全安心」いう形容詞を付けないと、国民は「心から」とかを付けないのと同様で、言葉的に許してくれないからである。
そんななか、やっと最近になってオリンピック選手の来日で水際対策の甘さが問題になったりしている。拙著「広重~コレラに死す」で水際対策の甘さを述べたのは、江戸時代並みという皮肉なのだが、私だけがここで呟いても何の効果もないだろう。
またまたベッドが増えない理由もこれまで政府が医療の効率化を図った結果だということをやっと最近少しだけ報道しているようだ。なにしろ、コロナによる重症患者の死亡が毎日発表されているそのなかで、ベッドを削減した病院は国策に合っているからということで、今も補助金が出ていることをほとんどの人は知らないだろう。
しかし当時の国民は「聖域なき改革」と演説され、中身は知らなかったにせよ結果的に国民は医療の合理化に賛成したのである。
今も報道を見ると、毎日毎日、首相、官房長官、厚生大臣、新型コロナウイルス感染症対策担当大臣、ワクチン担当大臣、知事の顔を見ない日はない。
入れ替わり立ち代わり素人的な発言を繰り返しておられるが、それもそのはず彼らは医療の素人だから、コレラ対策を述べているのではない。
毎日テレビに顔を出すことが仕事、つまり選挙対策をやっていると思えば見えてくるだろう。コロナ責任者与党1名だと選挙で1名しか当選しない。そこで与党数名が顔を出せばば与党数名が選挙で当選する。
CMの中身より放映回数という現代のCM方式を走っているわけだ。まるでお笑い番組と同じだが、これが実状だ。
繰り返すが、①先ずは検査、受診、②そして入院設備とスタッフの確保、③感染症は水際対策。④そして医療に効率なしの考えで、早くからの治療薬の開発。小生は昨年からそう言ってきた。刑事ドラマでは、「初動捜査が後手になれば事件は解決しない」と言っている。われわれも風邪かなと思ったら早めに対処すれば、1~2日で治癒する。それを無理して仕事についたため長引かせたり、重症化させた例は幾つもある。政府のコロナ対応も同じだった。「経済・経済・・・」と誰かが言うことにとらわれて、結局は長引かせて経済的犠牲者を生んでしまった。
それもこれも政治家に志がないからだ。
と、よく言うが、逆に私たちがどういう政治(あるいは政治家)を望むかが大事だと思う。
栃の木やさんの休店を悲しむ人たちがたくさん訪ねてくれた。
私も、《胡椒切り》誕生のきっかけを作ってくれて料理研究家の冬木れい先生ご夫妻と、協会の理事の皆さんと、《胡椒切り》を愛する皆さん方と、福田先生ご夫妻などなるべく多く顔を出したが、いつもあちらの席、こちらの席にソバリエさんが見えていた。それに、かつて蕎麦打ちボランティアで共にしたサンフランシスコ・チームの皆さんからも惜しむ電話があった。長いお付き合いだから、また会える日があると思う♪
〔エッセイスト ほし☆ひかる〕