キリン「レシピ探索機能」のシステムの試験運用を開始

      執筆者:shirai

キリンホールディングスと三菱総合研究所(以下、MRI)は、共同開発中のビール新商品開発支援システム「醸造匠AI」に新たな機能「レシピ探索機能」を追加し、6月からキリンで試験運用を開始した。今後は同システムを活用したレシピ開発の効率化・高度化により、商品開発サイクルの短縮、新発想の商品開発、熟練技術の伝承促進を目指す。ビールの新商品開発は、技術者が知見や経験をもとに原材料の配合や工程条件を調整しながら試作を繰り返し、中味のレシピを決定する。キリンでは開発したレシピや技術的な知見がデータベース化されているものの、データの活用に関しては技術者により個人差があった。そこで同社の飲料未来研究所とMRIは、過去の試験醸造データから学習した機械学習モデルに加え、技術者の知見を取り入れた機能で、原材料の配合や工程条件を設定することで、どのような試作ができるかをAIが予測し提示する「試作結果予測機能」を持った「醸造匠AI」を2017年に共同開発。同機能を活用することで、技術者がレシピ条件から試作結果を事前予測することが可能となり、商品開発業務が効率化された。一方で、目標とする味を実現するレシピの着想には技術者の経験値や発想力が求められるため、依然として技術者による個人差があった。そこで同社とMRIは、この問題を解決するために、目標とする味から原材料や工程条件を逆引きする「レシピ探索機能」の開発に取り組んできた。今回「醸造匠AI」に追加した「レシピ探索機能」は目標とする味の指標値を入力することでAIがレシピ候補を提示。経験の浅い技術者も熟練技術者と同様に、目標とする味を実現するレシピ候補を抜け漏れなく洗い出すことが期待できる。また、さまざまな特長を持つレシピ案を複数提示するため、熟練技術者であっても着想の難しい、新規性の高い発想のレシピの発見が見込める。初代「キリンビール」に代表されるラガービールからクラフトビールに至るまでのキリンの豊富なレシピ開発実績と、熟練技術者との対話を通じてノウハウを引き出し、高精度のAIを開発するMRIの「匠AI」という枠組みを組み合わせることで、キリンの長年のものづくりで得た多彩な知見と、MRIの高精度のモデル構築を実現するAI開発力が「レシピ探索機能」の開発に生きている。ビールのおいしさは、指標値だけでは表すことのできない味や香味バランスで成り立つため、最終的には技術者によるレシピ開発が欠かすことができないが、AIと人の五感をかけあわせることで、これまでにないビールをより効率的につくることが期待できる。また、「醸造匠AI」で「試作結果予測機能」と「レシピ探索機能」という一対の機能が完成したことにより、業務の飛躍的な効率化が進み、技術者は創出された時間で人にしかできない価値創造を行うことで、「働きがい改革」のさらなる推進が期待できまるだけではなく、熟練技術者のビール醸造のノウハウが取り込まれた「醸造匠AI」を通じて、熟練技術の伝承促進も見込める。同社は今後、「醸造匠AI」にデータを蓄積していくことで、さらなる商品開発の効率化と新価値創造を目指していく。