<コンビニ創業戦記『鈴木貞夫言行録』>(第62回)

      2022/11/28  

第6章・(株)ミトリズ時代(その4)

『最近の読書録シリーズ』(其の2)

<デビッド・A・シンクレア著『LIFE SPAN』(老い無き世界)を読んで

                                               (其の2)

――『健康寿命120歳超え』を目指す旅⓶--

4・第一部「私たちは何を知つているか」(過去)

  ―-老化の唯一の原因・原初のサバイバル回路--

   【生命の誕生】

          約40億年前の地球は酸素はなく、生命も存在しない無慈悲な場所である。

      火山が火を噴き熱い空気が渦巻き、いたるところで熱水が噴きだし、 水がたまる。

      それに、隕石や彗星に付着して降って地表を覆っていた有機分子が、 水に溶けた後、

          特殊な化学反応を起こす。

      核酸が生じ、濃度が高まり、分子同士がつながつて行く。

          それが世界初のリボ核酸(RNA)分子である。

   後にDNA(デオキシボ核酸)へとつながる物質で あり、やがて細胞膜を誕生させる。

   原始的な代謝の仕組みを発達させ、自らの体の複製を創り始める。

   これが生命が誕生した瞬間だ。

   小さく、壊れやすい生命は、日に日に進化して複雑な形態をとりながら、

          最低の細胞の塊は最低限の栄養と水分を求めて争い、

   増えたいという根源的な欲求に応えるべく奮闘する中で、生き残る原始生命が現れる。

   それを「マグナ・スペルステス」と呼ぼう。

         ラテン語で「偉大なる生き残り」の意味である。

   【厳しい環境を生き残るためのメカニズム】

   宇宙線が猛威を振るい、雨季と乾季が激しく入れ替わり、

   地殻変動と大陸移動などが繰り返される過酷な環境の中で、マグナ・スペルテスは、

         生き残るためのサバイバル回路の基本形であるメカニズムを身に着け発達させる。

   過去25年にわたる著者の老化研究を踏まえれば、現在私たちの周りにいる地球を

   共有している全ての生物、どの真菌も、どの植物も、どの動物も、もちろん人間も、

   今なおこのメカニズムを共有していることが分かる。

   この回路は実に単純で、実に堅牢な仕組みである。

   おかげで、生命が地球上に存在し続けられるようになり、回路を親から子へ

   と伝えることができた。

   その過程で変異を繰り返し、着実に改善されながら、宇宙から何がもたらされようと

   生命を助けて何十億年も存続させてきた。

   人体は完壁とは程遠く、今も進化の途上にある。

   しかし、高度なサバイバル回路が備わっているために、

   生殖年齢が過ぎても何十年と生きられる。  

   だから私たちは生き残ることが大得意なのである。

   だが、それには代償が伴う。

   それは、一番遠い祖先に生じた一連の遺伝子変異を、つまり最初のサバイバル回路を

   受け継いでいることこそが、私たちが年を取る原因でもあるからだ。

   20世紀の前半までは、生物が老いて死ぬのは「種のため」との見方が一般的だった。

   「 生物の個体は 種の利益のために行動する」という考え方である。

   だが、1950年代に入り、この概念は廃れ始める。

   科学における発見には終わりがなく、新たな発見は、 新たな疑問へとつながる。

   科学はかつてないほど急速に進歩している。 

   数世紀にわたつて知識が蓄積され、数々のテクノロジーが 発展してきたからだ。

   とは云え、何についてであれ、普遍的な摂理というものは、 一夜にして

   見つかるものではない。

   ましてや、老化のような複雑な現象となればなおさらだ。

   【老化の情報理論

   老化の原因を解き明かせる理由と呼ぶためには、 科学的な検証に耐えるだけでなく,

   老化を構成するすべての柱について、合理的な理由を与えられることが条件となる。

        著者 は4半世紀に及ぶ老化の原因研究から、「老化の情報理論」に到達した。

   それによれば、ごく単純に言えば、老化とは「情報の喪失」である。

   人間の生体内には2種類の情報があり、それぞれ全く異なる方法で符号化されている。

   一つは、デジタル情報である。

   具体的には、DNAを構成する基本単位の「ヌクレオチド」の塩基部分にあたる

   「アデニン」「グアニン」「シトシン」「チミン」のいずれかである。

   それぞれを、A, B、C, Tで表す。

   DNAはデジタル方式なので、情報の保存やコピーを確実に行うことができる。

   DNAは実に頑丈な物質でもある,情報を格納する生体分子として、

         鎖状につながった核酸が 過去40億年もの間選ばれてきたのは、

         デジタル情報の保存に適した長所を持つていたからだ。

    だが体内には、もう一種類の情報・アナログ情報がある。

   これは比較的に新しい研究的成果であり、親から子へと受け継がれる特徴のうち、

   DNAの文字配列そのものが関わっていないものを指し、

         これは「エピゲノム」と呼ばれる。

   太古の昔のマグナ・スペルステスや現代の真菌のような単純な生物にとっても、

   エピゲノムの情報を保存して次世代に引き渡すのことが重要であり、

   複雑な生物には  不可欠である。

   複雑な生物とは、複数個の細胞で構成される生物であり、

        その極致が哺乳類であり、ヒトである。

   ヒトの新生児は、たった一個の受精卵から出発して約260億個の細胞を持つに至る。

   また、私たちの細胞一個一個には、すべて同じ遺伝情報がしまわれている のに、

    それぞれの細胞は何百種類もの異なる役割へと分化する。 

   いずれの場合も、そのプロセス全体を調整しているのがエピゲノムである。

   ゲノムがコンピューターとするなら、エピゲノムはソフトウエアといえよう。

   分裂したばかリの細胞に対して、どんな種類の細胞になればいいかを教えるのだ。

       【酵母研究から始まっ老化の情報理論】

   2003年4月15日、「ヒトゲノムの解読が完了した」というニュースが世界を巡る

         だが実際にはその時点での未解読の領域は、全ゲノムの69%にも及ぶ。

   著者の提唱する「老化の情報理論」は、酵母研究から始まった。

   酵母とヒトは約10億年前から別々の進化の道を進んでいる。

   その一方で、実は共通点も多い。

   例えばヒトの遺伝子の70%ほどは出芽酵母と同じである。

    また、その遺伝子を使い酵母がしていることは,ヒトと大きく変わるわけではない。

   ヒトがそうであるように、酵母細胞も、食べようとしているか、

         生殖しようとしているかである。

   たいていの人間と同じように、年を取ると酵母は動きが鈍くなり、丸く太り、

         生殖力も衰える。

   但し、ヒトがこの一連のプロセスを経るには何十年もかかるのに対し、

   酵母細胞は同じことを一週間で終えるのだ。

   だからこそ、老化の謎解明に乗り出すうえで絶好の出発点となってくれた。

   酵母研究の発見成果が複雑な構造の生物にも当てはまるのかどうかの研究に、

   さらに20年の歳月を要したが、驚くべきことに人間と酵母は約20億年の間、

   別々の進化の道をたどって来たのに、サバイバル回路はほとんど変化していない。

   地球上のあらゆる生物にほぼ同じ長寿遺伝子が見つかるのは驚くべきことである。

   樹木も 酵母も、線虫も、鯨も、そして人間も、現存するすべての生き物の系統を

   辿れば、原初の地球に存在した同一の生命マグナ・スペルテスに行き着く。

   顕微鏡を覗けば、私たちはどれも、同じ物質でできている。

   同じサバイバル回路を共有し、その防御ネツトワークが細胞を守って、

   厳しい時期にも、私たちを助けてくれている。

   初めてマグナ・スペルステスの体内に回路が登場した時には,

        2個の遺伝子(AとB)だけが関わつていたのに対し、哺乳類では

        この数が増えている。 

        研究により、ヒトゲノムにはこれまで20数個の関連遺伝子が見つかつている

    これらを「長寿遺伝子」と呼ぼう。

   その遺伝子が、いろいろな動物の平均寿命と最大寿命を共に伸ばす力を持つことが

   示されてきたからだ。

   しかも、長寿遺伝子は寿命を長くするばかりではなく、より健康な生涯を送れるよう

        にする,いわば「元気遺伝子」でもある。 

   こうした長寿遺伝子が現に存在することも、その多くが何をしているかも、

   今では明らかになっており、それらを深く探って利用できる道が開けている。

   自然界に存在する化学物質や合成化学物質を用い、単純なテクノロジーや

   複雑なテクノロジーを駆使して新しい知恵も古い知恵も動員する。

    そうすれば、長寿遺伝子を読み、その働きを強めたり弱めたりし、

   さらにはすっかり変えてしまうことも夢ではない。

   著者が研究対象にしている長寿遺伝子は「サーチュイン」と呼ばれる。

   「サーチュイン」は細胞を制御するシステムの最上位に位置して、

   生殖とDNA修復を調節している。

   環境の厳しい時にも自らの遺伝子を守り、数十億年にわたって、途切れることなく

   繁栄を続けて来た生命の仕組みのカギを握るのが「サーチュイン」である。

   「サーチュイン」の他に研究が進んでいる長寿遺伝子がさらに二組存在する。

   これらの長寿遺伝子の仕組みをコントトロールできれば、医療も日常生活も、

   ヒトと云う生物を定義し直す必要も生じるはずである。

        年を取れば老化するというのは昔から言われてきたことだ。

   老化こそは、体の衰えをもたらし、生活の質を制限し、特定の病的異常を伴い、

   心臓病にガン、関節炎にアルツハイマー病、腎臓病と糖尿病、高血圧、

   虚血性疾患、心房細胞など、全ゆる病気すべてに共通するリスク因子である。

   老化は一個の病気であり、治療可能であり、私たちが生きている間には、

   治療できるようになると、著者は確信している。 

   『老化の情報理論」に立てば、老化は治療できる病気なのだ。

    次号(其の3)では、第二部『私たちは何を学びつつあるか』(現在)

          について概説したい。

                                  以上

 

鈴木貞夫年譜・2022年度』(第3四半期②)

 9月 6日・朝令

     ・プロジェクトMT

     ・部門長会議

     ・経営会議

           ・LDS勉強会

    7日・コンサル勉強会

   12日・LDS勉強会

   13日・朝令

     ・部門長会議

     ・経営会議

     ・フードボイス月例会(於・学士会館)

      14日役員ヒアリング

   21日・朝令

     ・アカウント戦略会議

     ・部門長会議

   22日・取締役会

   27日・朝令

     ・部門長会議

     ・経営会議

     ・リスクコンプライアンス委員会

     ・コンサル勉強会

                        以上

(次号は『鈴木貞夫言行録』(第63回)を掲載いたします)

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