第823話 菊谷の《あらきの蕎麦》

      2022/12/05  

 巣鴨の「菊谷」さんから、山形の《あらきの蕎麦》が手に入ったので、いらっゃいませんかとのお誘いがあった。
  伺ってみると、太野祺郎さん、高遠彩子さんが先に見えていたので、私も「お久しぶり」と、同席させてもらった。お二方とも蕎麦界のキラ星である。またミシュランガイドにビブグルマンの店として8年連続で選出されている「菊谷」さんもキラ星であることはまちがいない。

   話題の蕎麦粉は、村山市産の「でわかおり」(一等、令和3年産)73%+西川町産最上早生」(一等、令和3年産)27%。これを村山市の老舗「あらき」さんが「菊谷」さんに送ってくれて、「菊谷」さんが十割で打って、われわれに供してくれた。これが《あらきの蕎麦》というわけである。
  笊に盛られた蕎麦切を見ると、色はまるで《高嶺ルビー》のようにやや赤みを帯びている。しかし味は《高嶺ルビー》のような赤い味ではない。さっぱりとして食べやすかった。詳しいことは、感性度の高い高遠彩子さんのレポに譲るとして、なぜ「あらき」⇛「菊谷」なのかのお話も興味深いと思う。

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 それは一言でいえば、巣鴨という地縁と、常陸秋そばとの蕎縁のお蔭なのかもしれない。
   巣鴨の地縁というのは、菊谷さんは地元にお世話になっているという考えから、とげぬき地蔵とはしい知られている高岩寺とのお付合いもされている。その住職の来馬明規師は日本医科大学第一内科の医師であることは、禁煙の講演などをなさっているポスターをたまたま見て知っていた。その来馬師は前に山形の病院に勤務されていたという。私は、日本医大第一内科、山形、と聞いて、お世話になっている先輩にも同じ経歴をもった人がいるので、「山形の病院というのは、東根市の北村山公立病院だろう」とピンときた。こうした病院を「派遣病院」という。派遣といっても現代の雇う側に都合のよいハケンなんかではなく、立派な医療体制である。なぜなら医科大学は卒業生の実地訓練の場として大きな病院が必要である。また反対に地域病院は継続的に医師を提供してくれる大学と手を結びたい。この両者の要望が合致して派遣病院という体制が生まれた。私の先輩も日本医大を卒業後、北村山公立病院で3年間勤務していた。
  そんな医療背景のあるなか、山形に縁のある来馬氏が「山形の蕎麦界が困っているから、支援してほしい」と連絡してきた。そこで菊谷さんは、常陸秋そばの振興を手助けしている縁から常陸太田に声をかけてみたところ、協力することになったという。その内容もうかがっているが、ここでは私がペラペラと話す立場ではないから、これ以上は控えたい。ただ、ペラペラと話すわけにはいかないことも確かだが、この話なくしては今日の蕎麦の風味はないことも確かである。 
 だから、こうした物語を背に、私たちは菊谷の《あらきの蕎麦》を味わったのである。菊谷さん、ごちそうさまでした。

〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕