キリンビール堀口英樹社長 年頭所感
2023/01/01 執筆者:編集部
「令和5年 年頭ご挨拶」キリンビール株式会社代表取締役社長堀口英樹氏
年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。 また、旧年中のご愛顧と格別のご支援に心から厚く御礼を申し上げます。 昨年は、3月以降、長期化する新型コロナウィルスとの共存を目指す「ウィズコロナ」社会への移行が模索されました。人流やインバウンド需要の回復に向けた政策も背景に、コロナ禍で長期にわたって多大な影響を受けた第3次産業をはじめ、経済・社会全般に 少しずつ明るさが戻り始めています。しかし、コロナ禍の解消はまだ遠く、個人や企業においては依然としてさまざまな環境変化に対峙しそれを乗り越えていく努力が求められています。また、海外での地政学的リスクの顕在化や急激な円安進行を受けて、国内経済は 原材料費や物流費、エネルギーなど諸コストの上昇に直面しており、酒類業界も含めた あらゆる産業の商品・サービスの値上げが実施されました。このような物価上昇傾向を 受けた家計防衛による消費マインドの低下も大いに懸念されるところです。消費財メーカーとしてはコロナ禍で加速・定着したお客様の行動様式や生活習慣をさらに深く理解し、お客様が求めるものを真摯に把握し、そしてお客様に喜ばれる新たな価値を柔軟かつ的確に提案していく行動がますます重要になってくるものと考えています。酒類市場をみますと、「ウィズコロナ」社会への移行に伴い、コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食関連市場が緩やかながら回復傾向にあることは非常に嬉しい状況です。ただ、コロナ前の2019年と比較すると未だ70%程度の回復と思われますので、本年も引き続き飲食関連市場の方々と共に、この回復基調を強固なものにしたいと考えています。一方、家庭用市場は、ライフスタイルの変化に伴う「家飲み」の拡大や、2026年のビール類税率一本化を目指した各社のビールマーケティング強化を背景に、狭義のビールカテゴリーを中心に堅調に推移しました。このため、ビール類市場全体は2004年以来18年ぶりに年間プラスで着地することができたのではないかと思われます。一方、RTD市場については、ここ数年のレモンフレーバーを核とした拡大基調に一服感が見え、昨年はほぼ前年並みの 水準で着地したものと思われます。また、ウイスキー市場は飲食関連市場の回復が牽引 した他、ハイボール中心の家庭用需要も堅調で前年プラスで着地したとみています。回復傾向を見せつつも、依然 環境変化への対応が求められる市場環境の中、当社は「お客様のことを一番考えて、お客様に寄り添う」という一貫した指針の下、「強固な ブランド体系の構築」「新たな成長エンジンの育成」という現行中期経営計画で掲げる 2つの戦略軸に基づいた活動を着実に展開しました。「強固なブランド体系の構築」については、まずビール類で、2026年の税率一本化後の市場においてもお客様から愛されるような強固なブランド体系の基盤構築を進めました。 その結果、当社のフラッグシップブランドである「キリン一番搾り生ビール」は、「一番搾り製法ならではのおいしさ」を一貫して訴求したことに加え、料飲市場の回復も背景に対前年2ケタの伸長を達成しました。「本麒麟」は、新ジャンルカテゴリーが 厳しい状況の中、「飲みやすく飲み飽きない味わい」にご支持をいただき、市場平均を 上回って着地できたと思います。また、プリン体0・糖質0の発泡酒「淡麗プラチナダブル」は、コロナ禍で加速したお客様の健康志向意識の高まりもあり1ケタ台半ばの伸びを示しました。一方、RTD分野では、「食事に合う甘くないおいしさ」がお客様の大きなご支持を得た「キリン 氷結®無糖」ブランドが対前年6割超のプラスと大幅に拡大しました。これに 伴い、「キリン 氷結®」ブランド全体も対前年プラスを確保しました。また、国産ウイスキー「陸」は、富士御殿場蒸溜所の多彩な原酒主体のブレンドに変更 した4月以降好調に推移し、年間で前年倍増の規模となっています。ノンアルコール分野においては、従来のビール代替とは異なる積極的飲用需要を捉えた「キリン グリーンズフリー」が対前年8割超と拡大しています。選択と集中の活動により将来に向けたブランド基盤の強化が着実に進捗したと考えます。中長期的に漸減が予測される酒類市場において、サステナブルな事業展開を目指す 「新たな成長エンジンの育成」についても成果が出ています。拡大傾向にあるクラフトビール市場においては、量販・料飲両市場での「スプリング バレー」ブランドのプレゼンスが強化されました。9月に発売した「スプリングバレー シルクエール<白>」は、発売2週間で年間目標の4割を販売する好調な立ち上がり でした。また、「Tap Marché(タップ・マルシェ)」や「キリン ホームタップ」については、それぞれ料飲市場・家庭用市場においての有効なクラフトビール体験の入り口と なっている他、広くビールの魅力化を推進する役割を果たしています。3Lペット容器を使用「おいしい・かんたん・おトク」をコンセプトとする次世代ビールサーバー「TAPPY(タッピー)」は、労働力不足やフードロス削減という社会課題の解決にも貢献するCSVの側面を持っていますが、8月には取扱店数が10,000店を突破する規模となっています。国産ウイスキーでは、海外での関心の高まりや輸出国の拡大を背景に、「富士」ブランドの輸出が好調で、昨年は金額で対前年3倍程度まで拡大しました。「新たな成長エンジンの育成」はまだ途上ですが、現行の中期経営計画初年度としては、相応の基盤づくりができたのではないかと思います。さて、現行中計2年目を迎える本年も、「ブランドと人財を磨き上げて実行力を高め、結果を出す」という基本方針に基づき、「正しい戦略とマインドの掛け算」で臨みたいと考えています。「正しい戦略」とは、昨年同様に「既存事業領域における強固なブランド体系の構築」と「将来を見据えた新たな成長エンジンの育成」、そして「マインド」は「お客様のことを一番考えて、常にお客様に寄り添いながら、お客様の要望や社会の課題解決に果敢に取り組む」という一貫した姿勢です。本年は「ウィズコロナ」の経済・社会への移行が加速される他、引き続き不安定な海外情勢や経済状況、そしてさまざまな局面におけるコストアップ・価格上昇に直面し、環境変化への即応・柔軟な対応の重要性がますます高まってくると思われます。また、ビール業界では、今秋に2026年に向けた第二弾のビール類税率改定も予定されます。そのような環境の中、弊社は「人と人がつながる喜びを届けることで、お客様とあたたかな絆を育み続ける会社」になることを目指して、常に挑戦を続けていきたいと思います。弛まずに、お客様が求める新たな価値を提案し、ビール類を始めとした酒類市場全体を さらに魅力あるものにすることで、酒類総需要の拡大、そして将来に向けた酒類業界の 発展に邁進していく所存ですので、皆様からの一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。末筆ではございますが、新しい年が皆様にとって幸多く素晴らしい一年となりますよう心からお祈り申し上げ、年頭の挨拶とさせていただきます。令和5年(2023年)1月吉日。