キリン「優れた抗菌性を持つポリマー粒子の作製」成功
執筆者:motoe
キリンホールディングス(社長:磯崎功典)のキリン中央研究所(所長:矢島宏昭)は、東北大学大学院工学系研究科との共同研究において、プラス電荷を持つキリン独自の重合開始剤を用いることで優れた抗菌性を発現するポリマー粒子の作製に成功。同研究成果は、アメリカ化学会出版の応用材料を取り扱う学術雑誌「ACS Applied Bio Materials」に掲載された。同社では東京大学、東北大学との産学連携により、プラスの電荷をもつ独自の重合開始剤を開発し、産業への活用を目指して研究を進めており、2018年の、混ぜるだけで細胞の中に取り込まれるようなナノポリマー粒子の合成法の開発に始まり、毛髪や皮膚に吸着する性質を持つポリマーや温度に応答して大きさの変化する高分子ゲルなどの開発に成功。この重合開始剤がポリマー材料にさまざまな機能を付与できることを明らかにしてきた。銀や銅といった金属元素には抗菌作用があり、金属成分を材料表面に塗布したり、金属粉体にしてプラスチックや繊維などに練り込むなどの利用法があり、これらの金属をナノ粒子化することによって抗菌作用はさらに高まると期待され、研究開発が進められているが、一部の金属が希少で高価であることや、製造工程の途中段階でナノ粒子が凝集して失活しやすいことも問題視されている。これに対して、プラス電荷を有する有機ポリマーにも、金属成分のような抗菌性がることから、今回の研究では、プラス電荷をもったポリマー粒子が抗菌性を発揮する点に着目。キリン独自の重合開始剤を用いて、より優れた抗菌機能をもつ材料の作成を目指し、東北大学と共同で実施した研究の結果、ポリマー粒子表面のプラス電荷量を増量・制御することで、制御しない場合よりも数倍以上抗菌性が高くなることが分かり、これは今まで報告されている抗菌性有機ポリマー粒子の中でもトップクラスの抗菌性能であり、少量でも高い抗菌性を確認しているという。また、他の抗菌性ポリマー粒子と比較して、原料となるモノマーと重合開始剤のみを使い、1回の反応で抗菌性ポリマー粒子が水中に分散した液を簡単に得られることも特長となる。微生物による汚染は、水を多く含む製品や水に触れることの多い場所で頻繁に起こるが、このため、水に安定して混ぜられる抗菌性ポリマー粒子は、液状製品や汚染されやすい場所で安定的に抗菌性を発揮し、微生物汚染を広く防ぐことにつながるという。今回創出した抗菌性ポリマー粒子を解析することで、抗菌性の強弱に関わる粒子表面の特性が明らになり、今後、さまざまなポリマー粒子を抗菌材料へと応用できる可能性があると同社。