第917話 命短し彼岸花、だけれども
2024/10/08
お彼岸が過ぎたころだった。庭の片隅にいつのまにか10-15㎝ぐらいの植物の茎が生えていることに気付いた。雑草にしては凛としていると思ったが、それが翌日には50-55㎝ぐらいの高さになって赤い蕾を付けていた。何の花だろうと思った、その翌日に開いた一輪の赤い花は彼岸花だった。まるで降臨でもしたかのように突然のことだった。
これは、もしかしたら彼岸の墓参りを怠っていたため、両親が怒っているぞと思い、明日の日曜日に数日遅れの墓参りをすることにした。
その夜のことだった。NHKのニュースで2名の閣僚人事を報じていた。その一番乗りが佐賀県選出の福岡氏だったが、早々と彼が決定したことに少し驚いた。
ともあれ翌日、墓前でそのことも報告した。福岡家は母の縁者であり、家が近かったから、亡き母は彼を可愛がり、応援していたからだった。加えて、彼の祖父は私の結婚式の仲人だった。
ところで、墓のある谷中霊園の上野桜木からの入口に「花重」という花屋のカフェがある。霊園にしてはいつも若いカップルのお客さんがいる。どうも人気のカフェらしい。そこで私は、帰りに休憩を取ることにしている。そしてたいてい台湾名物だという「愛玉子」をいただくことにしている。なぜなら亡父は若いころ台湾にいたから、もしかしたらこれを食べたかもしれないと想ってのことだった。これが私流の墓参りというわけである。
墓参を済ますと、庭の彼岸花は安心したかのように枯れた。
枯れた花というのは実に無残である。ましてやあれほど艶やかだった彼岸花の盛衰は落差が大きい。
数日してから、佐賀の福岡家にお祝いの電話を入れた。
「出世すると、急に親類友人が増える」というし、「わるいことをすれば、そういう親戚友人は潮が引いたように去っていく」ともいう。世間とはそういうものだし、花の盛衰のごとしかもしれない。
だけれでも、ここは素直におめでとう、日本のために頑張ってください、と彼に願っていることも事実である。
エッセイスト
ほし☆ひかる