(その六)『ハッピ―ワ―キング』
第六は<ハッピ―ワ―キング>の実現である。
22年前、私は米国フロリダ州の「パブリックス」を日本食糧新聞社主宰流通視察団の一員として訪問した。
「パブリックス」は80年近い歴史を持ち、当時既に600店舗を運営するSMチェ―ンであり、1998年には米国の「最優秀小売業」、1999年には「全産業べスト100社」にも選ばれた、かねて評判の高い優秀な小売業である。
その頃の米国は不況のどん底にあり、ニユ―ヨ―クの街は荒れ放題、デトロイトでは日本車の打ち壊しが行われていた。
然し、「パブリックス」は行き届いた店でよき繁盛していた。何よりも、従業員の高いモラルとフレンドリ―な仕事ぶりに感銘を受けた。
店内を案内してくれたマネジヤ―が、誇らしげに「パブリックス・スピリッツ」を説明してくれたが、その中の『ハッピ―ワ―キング』と言うキ―ワ―ドがとても印象に残った。
「お客様のお買い物の喜びに、日々お役に立つことが、私達の喜びです」という意味である。
その際、贈呈された「パブリックス50年史」は、今も手元に置いてよく参考にしている。
この社史には、1930根にらいの発展の歴史とその要因となった「パブリックス・フィロソフィ」が、創業者ジェンキンス氏始め、多くの従業員の声で、極めて感動的にまとめられている。
「パブリックス・フィロソフィ」を要約すれば、『お客様』、『従業員』、『お取引先』、の喜びの三位一体の追及であり、そのために「フレンドリィと効率の両立」、「個人尊重と家族主義」、「信念と確信の経営」を、どこまでも徹低し抜くということになろうか。
流通業の本質は、『ピ―プル・ビジネス』と言う点にある。
商売は<人>がいなければ成立しない。お客様も<人>であるし、働いてくれるのも<人>である。
経営の視点の中心は、常に<人>にあるべきだ。
利益を挙げる仕組みも、お客様の購買行動の底にある動機を考えることが出発点でなければならない。
<人>が利益の中心であるから、<人>に役立つことをして喜ばれる結果として、十分な対価を頂き、その上、お客様との良好な関係を長く続けていくことが、商売を支える基本である。
<人>は誰しも、自分という存在を認めてもらいたいという欲求を持っている。
人間にとってハッピ―な会社とは、誰もが「自分は認められている」と思える会社、言い換えれば、人間の基本的欲求である『存在証明』が快適に満たされる会社である。
現代は、利益の源泉が、機械や装置であるよりも、人間そのものに求められる時代である。
三国志にいう。「大事を挙ぐる者は必ず<人>を以って本となす」と。
時代が<人>を作り、<人>が時代を作る。個性的な人々がチ―ムを組んで、それぞれのエネルギ―を、ある方向を持ったものに変えることが出来る時、時代が作られるのである。
この熾烈な大競争時代を勝ち抜くには、他社が容易に模倣出来ない自社独自の経営資源、即ち、『自社の人間力』を磨きぬくことに尽きると確信する。
その意味で、「パブリックス」の『ハッピ―・ワ―キング』の理念は、21世紀の企業経営にとって不可欠というべきである。
(その七)『健康長寿・成熟社会』
第七は<健康長寿・成熟社会》への貢献である。
21世紀の日本は、人口減少と高齢化が不可避である。
既に、総人口及び労働力人口、そして若年人口の急速な減少が始まっている。
人口高齢化とは、『高齢人口の相対的増加と年少人口の相対的減少』と定義付けられている1950年から1975年までの25年間は、圧倒的な出生率低下による高齢化の進展が見られたが、それ以降は死亡率改善の影響が強まっている。
日本大学の人口研究所による推定では、2005年から2010年までの5年間に死亡率改善による高齢化が、出生低下による高齢化を上回ると見られ、『少子高齢化』から『長寿高齢化』へと、高齢化のメカニズムが変化している。
既に日本高齢化の速度は世界一と云えるが、国連推計によれば、今後中国、インドを始めとするアジア諸国の高齢化も記録的な加速が予想されており、21世紀の人類的な課題になると云えよう。
そのような趨勢の中で1970年代以降、先進諸国では、大量生産、大量消費による環境破壊が進行し、1990年代には、その上に環境汚染や異常気象などに直面する事になった。
現状のままでは、環境破壊を更に助長し、持続性のある社会生活が営めないという危惧から、健康や環境に寄せる消費者層がアメリカに登場し、自然食品や環境問題に前向きな企業の商品などの新しい市場が急速に拡大している。
健康で環境を破壊することなく、資源利用を継続出来る生活スタイルとして、LOHAS (LIFESTYILE OF HEALTH AND SUSTAINABILTY)と呼ばれ、世界的に注目を集めて、ロハス的な生活を求める流れが広がっている。
アメリカで着実に成長している「ホ―ルフ―ズマ―ケット」は、将に21世紀の長寿社会における食品小売業のあるべき姿を示しているように思う。
ロ―ソンが『ナチユラル・ロ―ソン』という新しいコンビニ形態を積極的に展開しているのも、このような時代の二―ズに応えようとするものである。
又、現代日本の経済社会システムは、本質的に明治以来の永年の人口増加時代に形成されたものであり、人口減少の時代には適合しないのは当然である。
従って、現在進められている構造改革の成功如何が、日本の未来を左右することになる。
日本経済が持っている「ひと」、「もの」、「かね」の三つの資源を、最高に有効活用できる条件を作り出す努力が求められている。
三つの資源を、収益性の低い産業分野から高い分野へ移動させ、経済成長を持続させる基盤を整えようということであり、構造改革が着実に進行し、確実に実現されるよう期待したい。
加速する高齢社会は、年金、医療、介護など、社会保障制度の改革も急がれるが、かつての発展途上国的な多産多死の「若年社会」よりは、はるかに豊かで福祉的な社会であり、その意味で、人類社会の、最先端の進歩の帰結として到来する「成熟長寿社会」と考えるべきである。
今や、高齢者は、社会的弱者ではなく、長い経験に裏けられた能力と、積極的に社会参加しようとする意欲を持つ元気な人々が大半を占めている。
資源、環境の制約によって、今までのような経済成長が既に困難と思われるが、それにつれて「モノの豊かさ」よりも『時間の豊かさ』や、『新しいコミユニテイの形成』を求めるべき段階にきている。
つまり、「福祉国家」よりも『持続可能な福祉社会』への進化が必要であり、社会保障制度と環境政策の統合を目指すべき時にきていると思う。
加えて、21世紀の世界で最も肝要なことは、『地球市民意識の涵養』である。
確かに世界は未曾有の変革期を迎えており、何としても望ましいのは、『人々が人間らしく生き、希望を持つことが出来る世界』であり、『世界共通の目標』や『普遍的な正義』と、国境を超えて多くの人々が幸せを感じられる価値観』、即ち『平和を愛するココロ』を養うことに尽きるであろう。
そのためには、異なる文化的背景を持つ者同士の『地球規模の民主主義』が不可欠である。
このような時代の必然的な要請に、日本の活力ある高齢者達は多様で豊富な経験と幅広い識見を生かして、それぞれの分野で大きな役割と貢献を果たす事が出来ると確信する。
次月より日本商人道の系譜を連載します
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