第503話 日本人の食事作法

     

今年の3月に北京で、第1回「日中蕎麦学セミナー」を開催した。そのときの世話人の孫先生らが9月に来日されるのを機に、第2回「日中蕎麦学セミナー」東京で予定している。
そのときは、①日本蕎麦の打ち方と、②食べ方の教室にしたいと思っている。
そのための一つとして、「日本人の食事作法」について、これまで外国人から質問のあったことを並べてみた。

その前に、和食は室町時代に成立したため、食の作法も鎌倉・室町・江戸時代の武家の生活態度が影響していることを認識しておいてほしい。

Q:欧米では脚を組むのは〝敵意〟のない証拠として良いマナーなのに、なぜ日本では脚を組んではいけないの?
A:和の思想をもつ日本人には人間関係において〝敵意〟という考えはあまりありませんし、さらには〝敵意〟を表さない方法として、正座して背筋を伸ばして、形良く座ることを礼儀とするようになりました。
また、正座の方が落ち着くと言う人もいます。平昌オリンピックのカーリング競技の時の休み時間に、欧米の選手は立っておやつを食べていましたが、日本の選手は正座して食べていましたね。

Q:「いただきます」や「ごちそうさま」を言う時になぜ手を合わせますか?
A:食への感謝を表現する行為です。
元々は道元の思想によると思われますが、食の場合は、神仏への感謝ではなく、食そのものへの感謝です。
そういう気持が日本人の中にあったのですが、それが国民的習慣となって広まったのは明治の小学校教育以後のことです。

Q:蕎麦猪口はなぜ手に持つのですか?
A:日本人は茶碗・汁椀は手に持ち、皿類は持たないで置いたままの状態で、しかも箸だけで食べます。
世界の服と比べて和服の袖は広くて長いので、食器を持たないと袖が汚れてしまいます。だから特にお碗(椀)物は持って食べるようになりました。
また、箸だけで食べるために、掴みやすいように箸先が細くなりました。

Q:欧米では置いてあるスープをスプーンですくって飲むのに!
A:日本人は、基本的には箸だけで食べます。スプーンやストローは使いません。ですから、日本人は汁も、お酒やお茶を飲むときと同じように椀を手に持って直接飲みます。ですから、日本のお碗は持ちやすいように、中国の碗より小さめになりました。
そういえば、過日、NHKの『スイッチ インタビュー』という番組で歌舞伎役者の市川猿之助さんがこんなことを言ってましたが、これが日本なんです。
腕を怪我して入院中だったけど、蕎麦が食べたくてなって蕎麦屋に行った。でも、怪我のため手が不自由で、どうしても蕎麦猪口が手に持てない。そこで卓に置いたままの猪口に麺を入れてつゆを付けて食べたけれど、つくづく思ったけど「猪口を手に持たないで食う蕎麦は味気ないネ」。

Q:蕎麦を食べ終わった後に、箸をなぜ箸袋に戻すのですか?
A:洋食では食べ終わった後、ナイフ・スプーン・フォークを皿の上に揃えておきます。それが「食事が終わった」という合図になります。
日本の箸も同じように終わったという合図として、箸を揃えて横に置きますが、箸袋に入れることもあります。


〔文・挿絵 ☆ 江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる