第976話 街を食べる

      2026/05/12  

 村田沙也加に『街を食べる』という短編があります。
 内容は村田らしく怖い話です。
 でも、それより私は「街を食べる」という題名に興味をもちました。

 五月のある晴れた日、友人のSkさんと千歳烏山の蕎麦店かりべを訪ねました。
 お店まではゆっくり歩くと15分ぐらいかかります。ですから、それを往復するのは悪いかなと思っていましたが、とんでもありません。
 Skさんは行き帰りの道筋、街並もよく観て楽しんで歩く方だったのです。
 「あそこにも蕎麦屋があるよ」「美味しそうなパンの香りがする」「お豆腐屋さんがある」「この家は何? レストラン? 普通の家?」「ワ、広いお屋敷」「白い花が・・・」。と言いながら「知らない街を歩くのは、楽しい」とおっしゃいます。
 それもそうかもしれませんが、それ以上に好奇心にみちているというか、感受性豊かなのかは、一緒に歩いていて楽しい人だと感心しました。
 お店での食事中もそうでした。私の知人のSさんがデザインを手がけた店内、かりべさんの料理と盛り方に、選んだ器、かりべさんの師匠のAさんが制作した画に関心を寄せ、心から賛辞するのでした。

 これって、食事だけではなく、街全部を楽しむ、まさに「街を食べる」感覚ではないだろうか。
 私は、そう思いながら、Skさんの言うことを聴いていました。
 そして、この時ほど、人間への関心と讃歌が湧き上がってくるのを感じたことはないと思いました。

エッセイスト
ほし☆ひかる