第281話 パスタ小史-1
1. 小麦+碾臼=小麦粉
パスタの原料には、蕎麦、トウモロコシ、ジャガイモなども使われることもあるが、主として小麦(デュラル小麦)である。
その小麦は、紀元前9000~7000年頃にメソポタミア(ティグリス河・ユーフラティス河流域)で栽培されるようになった、と子供のころの教科書に書いてあった。
「それが段々と広まって」とよくいわれるが、この「段々と」というのは「具体的にはどうなんだ?」と思って、ある人が計算してみたというから面白い。その計算はどうやったかは知らないが、とにかく1年に1.1kmの速度で伝播していって、エジプト、ギリシャ、ローマの大文明の繁栄の元となったという。
ところが、われわれ日本人が主食としている米は粒のままでも美味しいが、小麦は粒のままだと美味しくない。そこで現地の人たちは小麦をより美味しくするための努力を重ねてきた。それが碾臼の発明 ― 小麦も粉にすれば美味しいことを発見したのである。
ただ、これもいつごろ、何処で発明されたのかは定説がない。どうも、アジアとヨーロッパの境辺りの何処かで3000年ほどの往古に・・・、と曖昧に推測されているていどである。
そして、この碾臼もまた小麦の伝搬ルートを追いながら、発展していった。
すなわち、エジプト時代のサドルストーン(石皿) ⇒ ギリシャ時代のロータリーカーン(回転碾臼) ⇒ イタリア(16世紀後期)のロール製粉が、スイスやオーストリアなどに普及し、それからヨーロッパ全土へ広まった。
しかしながら、「苦労は財産」というが、小麦が米と違って厄介な穀物であるがゆえに知恵を使った。彼の地の〔小麦の民〕たちは碾臼を効率よく動かす力を常に追い求めてきたのである。すなわち「動物力・奴隷力 ⇒ 蒸気力」と。このことが、西洋の工業への道を拓いたことはよく指摘されていることである
かくて、【小麦+碾臼=小麦粉】文明が栄えることになるのである。
ちなみに日本の場合は、鎌倉時代の禅僧円爾(聖一国師)が明州碧山寺の水磨の図を写してきてから、碾臼文化 = 粉文化が始まった。
参考:W.S.ヴァンダイク2世監督『マリー・アントワネットの生涯』(1937年)、マーガレット・ドラブル『The Millstone』(河出文庫)、
〔江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる〕