第294話 江戸蕎麦ドリーム

     

作品 ☆ ほし絵

☆イタリアの在日某事務所から、「イタリア人向けにお蕎麦の説明してみませんか」と依頼されましたので、以下のように書いてみました。事務所発行のメルマガにイタリア語に訳して、掲載予定とのことです。
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☆日本の料理
日本の料理は〝旨味〟を大切にします。その旨味の出し方は西日本と東日本で少し違います。
西日本の代表は「京都の料理」、東日本代表が「東京(江戸)の料理」ですが、京料理の旨味は昆布ダシ、江戸の料理は鰹ダシです。これは水の硬度の違いから、そうなったようです。京都の水は軟水、それに比べて江戸は少し硬かったようです。軟らかい水には昆布と薄口醤油が、硬い水でとるダシは鰹と濃口醤油がよく合ったのです。
それから京都の懐石料理などはコースで供されますが、江戸は単品料理です。それは歴史的理由によります。京都の料理は、13世紀~15世紀(鎌倉・室町時代)に生まれたお寺の料理や武家料理が発展したもので、江戸料理は17世紀(江戸時代)ごろから始まった若い独身男性向けの食事処が初めだからです。彼らは蕎麦、天ぷら、鮨、鰻の蒲焼などの単品料理を好みました。

☆江戸の蕎麦
イタリアもそうでしょうが、アジアの人は麺をよく食べます。パスタはソースがさらに美味しくしてくれますが、アジアの麺も汁や種ものの種類が豊富です。もちろん日本の麺もそうしたものがありますが、むしろ日本人はシンプルに麺だけを味わう傾向があります。
それは日本が湿度の高い風土であることから、サッパリとした物、冷たい物、簡素な物などが好まれるようになったからです。
こうした簡素なモノを愛する日本人の特質は《蕎麦》にあらわれました。とくに冷たい《ざる蕎麦》は素材(蕎麦)を自然に近い形で味わえる食べ方として一番好まれています。
しかしながら、単純なものほど美味しさはごまかせません。そのために江戸の蕎麦職人たちは美味しい蕎麦を作る工夫を重ねてきました。その結果、食べやすい長さ、細さを求め、そして最適の茹で時間を見い出し、仕上げに冷たい水で麺を締め、凛とした《蕎麦》を作るようになったのです。こうして完成した蕎麦を《江戸蕎麦》といいます。それを私たちは汁に付けて食べますが、汁に付けるのは濃い味の汁だから、好みで調節して食べられるからです。
このようなシンプルな食べ物やライフスタイルを昔の人は〝イキ〟といって尊んでいました。
その伝統を受け継ぎながら《江戸蕎麦》は、美味しい料理、美味しいお酒とともに今も広く愛されています。
わたしたちはイタリアはじめ世界中の人たちにも、美味しくて、ヘルシーで、イキな《江戸蕎麦》をぜひ食べていただきたいと願っています。

特定非営利活動法人 江戸ソバリエ協会
理事長 ほしひかる