第322話 Still I Love You ♪
~ キャンディ・デルファー ~
「自分の書いた小説を、自分で解説するのは愚の骨頂」という話もあるが、読者さんから「偶には『百万本のバラ ♪』みたいな挿話も面白い」という声を頂いたので、素直に図に乗って今回は「Still I Love You ♪」について話してみよう。
その前に、ここに掲載している小説「コーヒー・ブルース」を読んでもらっている方からコーヒーの豆を頂いた。「長い間、おつかれさま」ということだろうか?
そこで、頂いた私は、ちゃっかりこんなことを思い付いた。
「NYの恵子から健にコーヒー豆でも送らせてみようか」と。
でも、それだけじゃ、ちょっと寂しい、と思ったとき、好きな曲「Still I Love You ♪」を思い出した。「今も私は愛している」「まだ愛している」とでも訳すのだろうか。
「未練、それも愛」なんていうキザな台詞を思いついた私は、小説「コーヒー・ブルース」の中では、桃子姐さんに何気なくそう言わせたが、愛しながらも、離れなければなくなった、恵子と健の心を「Still I Love You ♪」と表現してみようと思った。
この言葉を知ったのは、私の大好きなジャズメンの一人キャンディ・デルファーのアルト・サックスの曲である。
彼女のしっとりと奏でる「Still I Love You♪」はかなりいい。
https://www.youtube.com/watch?v=MwQ4BXLdRD4
動画を見ながら、聞いていると、その絵はキャンディではなく、小説中の美薗恵子が遠い日本にいる恋人のことを想って「Still I Love You ♪」と切なく歌っているように思えてくる!
( ただし、Candy Delfer は46歳、小説の中の恵子は34歳の設定 )
しかしながら、キャンディ・デルファーが、このように落ち着いて演奏する姿は珍しい。世界的大ヒットを飛ばした「Pick up the pieces + Sax a go-go ♪」をご覧いただければ、それがお分かりになるだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=ogJfEXBOdg8
よく「ジャズは夜の音楽」といわれるけれど、女性でありながら、自分流を貫いて、スムースジャズの旗手となった彼女の動画は、朝から見ても気持がいい。元気がもらえること間違いなしだ。アルト・サックスを吹きながら縦横にステージを動き廻り、楽団、ダンサー、コーラスの先頭に立つCandy Delferの、颯爽として、可愛いくて、セクシーな姿を見たとき、私は彼女がドラクロアの「民衆を導く 自由の女神」のように見えたものだった。だから、女性の方にもぜひ観ていただきたいと思っている。
そこで、そろそろこの小説も最終章に近づいてきたので、手の内を明かすと、書く際に私は、主人公恵子は和服の似合う美人という設定だけど、タイプも分野もちがう「民衆を導く 自由の女神」に似たキャンディの姿を、将来の恵子のイメージの下敷においていたのである。
NYのイーストリバーの船上で、「自由の女神」を模して写真を撮ったりしてみたのも、その予告としての挿入だった。
その将来というのは、「昭和の次の平成である」と、作者と読者は分かっているが、当の美薗恵子と野中健は知らない。
昭和の象徴の一つである銀座のクラブ経営を卒業した恵子、同じく昭和の象徴の一つである営業職を卒業した健、共に新しい道を切り開こうとしているが、それが次の時代に相応しいものであってほしいと作者は願っているところであるが、果たして・・・?
〔エッセイスト ☆ ほしひかる〕