第115話 神に架ける箸!
~ 中国麺紀行⑦ ~
食事するとき、①手で食べる、②箸で食べる、③ナイフ・フォーク・スプーンで食べる人たちは、世界ではほぼ1/3ずつだという。
手で食べる人たちは手の感触も味のうちとおっしゃるから、「へえ」と感心してしまう。また、箸を使う民族のうち、箸のみというのは日本人だけで、中国、朝鮮の人は箸と匙を使うことは知られている通りである。
箸の起源は中国だろう。もっとも中国は、古代では「箸」と言っていたようだが、今は「筷子(kuaizi)」と言っている。度々紹介している『韃靼漂流記』にも「Kuaiyzu」と記録してある。
せっかく来たのだから中国の箸を買おうと思い、李先生のご案内で王府井の箸屋さんに行った。
すると、あるある。象牙、金、銀、翡翠、と豪華である。日本ではだいたい竹か木であるが、ただ言わせてもらえば、その方が硬質の金属より唇に優しくて、食べやすい。
それはともかく、食卓に箸が必要になったのは、庖丁の使い方と関係する。つまり爼板文化圏では厨房で切りそろえられて、食卓に出された物を掴むための箸が必要になって考え出されたのである。さらには麺類の普及によって箸が一般的になり、匙はスープなど液状の物だけに使用するという習慣になった。
したがって、≪爼板=箸=麺文化 加盟国≫はほぼ重なっている。
写真はこの度の麺紀行でご縁のあった箸ならびに箸袋である。
中国の箸袋はみんな大きい。また、最近レストランでは日本式の割箸が流行っていて、それを「衛生筷子」と呼ぶらしい。
(左から~)
1.北京「東来順」の箸袋
2.避暑山荘「大酒店」の衛生筷子
3.張三営「百家春大酒楼」の箸袋 ― この中におしぼりと衛生筷子と爪楊枝が入っていた。
4. 避暑山荘「満漢全席」の衛生筷子
5. ホテル「長富宮飯店」の箸袋
(下段は~)
6. 自分で買った箸と、その箱
ご承知のように、だいたいの国では箸もスプーンも縦に置くが、日本だけが箸を横に置く。不思議な習慣だ。一説によると、茶道からきているという。とすれば、箸をとり上げることは、茶道の精神と同じく〝結界〟へ入ることになるだろうか。
またアイヌの祭祀では、「イクパスイ」とか、「キケウシパスイ」と呼ばれる箸が横に置かれているという。だとしたら、箸を横に置くのは古代からだったという可能性もある。それに、この「パスイ」が「ハシ」の語源だろうか。
いずれにしろ、箸を横に置く慣習は、感謝すべき食の神様への架け橋のような気がする。
だから、日本人は「頂きます」「ご馳走さま」という挨拶をする。
参考:一色八郎『箸』(保育社)、
〔エッセイスト、江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる〕