第51話 考える「脳学レポート」
「江戸ソバリエ」誕生(三)
☆将来の現役世代の学力テスト
7月末に、今年度の小中学生の全国学力テストが発表された。新聞記事の見出しには「論理・記述、依然弱く」と出ていたが、「依然」と表現されているように、現代の子供たちが「論理・記述」の能力が低いことは、以前から指摘されていることである。
一方、わが国の人口減が、将来の日本の憂うべきこととして叫ばれている。
国民の構成は、Ⅰ)14歳以下、Ⅱ)15歳~64歳、Ⅲ)65歳以上に分けられるが、そのうちの(Ⅱ)を現役世代といい、(Ⅰ)が将来の現役世代であることはいうまでもない。また、Ⅰ)とⅢ)は Ⅱ)の従属世代とされており、そのうちのⅢ)の比率が高くなっていくことを高齢化社会と呼ぶこともご承知の通りである。
このような傾向のとき、わが国の将来を担うべきⅠ)の世代の学力低下は日本の問題点だとされていることが上述の学力テスト報道がいわんとするところであろう。
そこで、このように将来の危惧が明確なら、「14歳以下の子供たち」の論理・記述面を強くすればいい、とばかりに様々な指導、努力がなされているが、まだその結果は出ていない。
その原因は、「14歳以下の子供たちに」と言う前に「15歳以上の人たち」が自ら論理・記述に強くなるように努力していないことだと思う。
世の中を見渡せば、論理性、専門性のない雑多情報や断片情報の氾濫である。さらにはそれら雑情報を幾つ暗記しているかというゲーム、あるいは検定ばかりが流行っているというのが現状である。
☆拡散思考のすすめ
話は変わって、過日、ある発明王に取材した。
彼は、こう言った。勉強法には、集中と拡散の二つがある。集中式は暗記には役立つが、ただそれだけのことでいくら積み重ねても知恵にはならない。一方の拡散思考こそが発明のコツである。いま世の中では集中力、暗記だけが勉強のようにいう雰囲気があるが、それはまちがっている、と。
ここでは発明の話や拡散思考の説明はおくとして、非論理的な、断片情報や雑多な知識を数多く知っていることだけが能力の高さと勘違いしている社会に気づくことが肝要であろう。
☆「江戸ソバリエ・脳レポート」の理念
さて、「江戸ソバリエ」認定事業の話である。
当方は(1)専門家による、(2)江戸蕎麦の総合学習を謳っている。すなわち、「蕎麦の花 手打ち 蘊蓄 食べ歩き 粋な仲間と楽しくやろう」という江戸ソバリエ宣言のもとに、①手学(実習)、②耳学(蘊蓄)、③舌学) (食べ歩き)というあらゆる方向( 総合学習ではあっても、何でもありではない )から、趣味の蕎麦を学び、楽しもうというわけである。そうした上で④脳学と称するレポートを提出してもらい、それを拝読し、認定させていただくことになっている。
いわゆる卒論を記述式のレポートにしたのは、論理的に[1]江戸蕎麦を極めてもらいたい、[2]麺や蕎麦について考えてもらいたい、[3]日本の食文化を愛してもらいたい、という願いからである。
案の定、提出していただいた「脳学レポート」は素晴しかった。審査員一同が正座して拝見しなければならないほど、誠実さにあふれていたし、その内容は濃かった。
しかるに、世間というのは少々情ないところがあるように思う。
「いちいちレポートに目を通すのは大変でしょう。○×式の試験にしたら、楽ですよ。」「いま流行の○×式の検定にしたらどうか。」「パソコン検定だったら、効率がいいし、儲かります。」と、住む世界の違う人たちがやって来て、現在の江戸ソバリエさんたちが眉をひそめたくなるような「儲かる、ビジネス、効率、流行、楽」という言葉でささやかれる。
そこにはわれわれの願いとはまったく別のもの、つまりⅡ)、Ⅲ)世代としての責任感がまったく見受けられないし、またこうした動きに対してお目付け的役割があるべきⅢ)世代の方々も、その身をただ流れにまかせられているようである。
さらにいうなら、「検定」の「検」とは、検察という言葉があるように、とり調べて合否を決定するという、上から見下すような意味があることをご存知だろうか。
一方の「認」は承知という意味であり、「認定」とは正当であると認めることである。
われわれは江戸ソバリエの皆さんを尊重すれど、上から目線で見てはいない。こうした理念から生まれた戦略が「脳学レポート」である。
「たかが趣味の蕎麦」の、またその中の小さな事業で、大それたことを言うつもりはないが、われわれは自らの「世代的責任」を忘れずに、その上で次世代を信頼しなければならないと思う。
いつの日かやってくるであろう、ユートピア「Better Livng As Human」の世界を信じつつ・・・・・・。
参考:「江戸ソバリエ」誕生 (第46話、第50話)
〔江戸ソバリエ認定委員長、エッセイスト ☆ ほしひかる〕
(次回「江戸ソバリエ」誕生(四)は、8月25日に掲載予定です。)