健康ニュース 2月15日号 天国と地獄への分かれ道

     

 この時期、夏に比べて10倍以上の死の危険と背中合わせなのが、生活に欠かせない入浴であります。脱衣所、洗い場、浴槽内でのいわゆる風呂がらみの死亡者は年間14、000人近くを数えています。特に浴槽内での溺死者数は4、000人近くで、昨年の交通事故死の3、900人台より多いということです。

 ある機関の調査によりますと、入浴だけとは限りませんが、ヒートショックという言葉を理解している方は、国民の約5割に過ぎないということです。今回は命にもかかわる入浴とヒートショックについて整理してみました。

 まず入浴について考えてみます。この時期、沖縄では気温25度近くになることも珍しくはありません。街行く人々もコートなどは当然着ていません。仮にAさんがTシャツ一枚で飛行機に乗り、氷点下の北海道千歳空港に着いたとします。AさんはTシャツ一枚で北海道の街を闊歩することが出来るでしょうか。もちろんあり得ません。沖縄と北海道の気温差は25度以上ということもあり得ます。 

 実は入浴事故で多いのはこの温度差に適応できないことが多いのです。くつろいでいる部屋はおそらく20度近い室温でしょう。お風呂に入ろうと居間を出て浴室に入りますと、脱衣所は多分10度前後の室温でしょう。さらに裸になり洗い場に入ると、今の時期は5度前後かもしれません。居間と洗い場では15度ぐらいの温度差が考えられます。血圧も居間にいた時よりはずっと上がっています。

 問題は、浴槽内との温度差です。40度近い浴槽内では、温まった体内は血管も広がり血圧が下がります。十分温まり、体を洗おうと湯船から上がろうと立ち始めると血圧は急激に上昇。この激しい血圧の変動が、特に血管の弱っている高齢者には耐えきれない負担となり、意識を失い事故死、溺死にもなりかねないと言われています。

 どんな強靭な体の持ち主でも、Tシャツ姿で沖縄から乗った飛行機から、氷点下の千歳空港に着いた時は何らかの防寒対策をすることでしょう。Tシャツ姿で札幌の街を歩き回ることは自殺行為です。 

 同様に、くつろいでいた居間から、お風呂に入るまでのプロセスでは、体は短時間で温度差を感じ、血圧などが対応してしまうため高齢者には大きな負担となっているのです。高齢者が風呂好きだからと言って、一番風呂を勧める時などは、脱衣所内の温度を上げる、洗い場では、浴槽の蓋を開けておく、シャワーを出しっ放しにして浴室内の温度を上げるようにしておくなどの対策が欠かせないでしょう。

 もし「お父さん、お風呂の準備が出来たから一番風呂に入ってくださいよ」と言われたら、ありがたいと思う前に「生命保険、書き換えられていないかな?」と思うぐらいの気持ちがあっても良いでしょう。(もちろん冗談ですが・・・)

 ヒートショックとは、このように居間、脱衣室、洗い場、浴槽内などの温度差により血圧の変動が大きくなり、結果として体への負担から脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な疾病を引き起こすことを言います。浴室での「あぁ、極楽極楽」が一瞬にして地獄になってしまわないようにしましょう!