第437話 りりりの鮨屋

     

こんな、どうでもいいことに気付いている人はいるだろうか(笑)。

ある日のこと、鮨屋に行く。
座ると、最初にお絞が出てくる。
ネタは季節の走(初)、盛(中)、名残(終わ)によって微妙に旨さが違う。
そのネタを板さんはシャをとって粋に握、客に出す。
客は、一つ食べたら、口直しにガ、そして次のネタへ。
赤、青、白身の魚、あの貝、この貝・・・。
新鮮だから、角が立っている。腰もある。
あま味も感じる。ネタもシャリもうまい。
でも、魚介だけの握り鮨は和食に大切な旨味がない。
だから、旨味たっぷりの海(の)で包んだ軍艦をもらおうか。
最後にはさっばりした物も頂こう。カッパと呼ぶ胡(きゅう)巻きだ。
最後は、上が
「女将、お勘定。」
そういえば、「釣はいらねえよ。」というのが江戸ッ子だとか、誰か余計なことを言ってたナ。
でも女将さん、せっかく釣り銭を数えているから、待ってよう。
さてと「ごちそうさま」を言えば、背中に「毎度」の声。
外へ出て、一服。そうそう、煙草を吸うとき擦るマッチを昔はテッカと言っていたなあ。

この「鮨屋の、りり尽」の話、ショート・ストーリー風に小生が脚色したが、ほとんどは銀座の鮨屋の旦那が、人形町の料亭「きく家」で開かれたある和食会議で披露したこと。
聞かされた者は、「成程」と思ったものの、あまりにも意味もない内容だったので、どう反応していいか迷いつつ、苦笑いをしたものだったが、そのときに大森の老舗海苔屋さんが「焼立て、です」と言って配った有明海産の海苔の美味しかったこと。みんなパリパリと食べながら有明海苔の旨味を絶賛したせいか、数日後、その海苔が送られてきた。
お蔭で、二度美味しい海苔を味わい尽くすことができて、「あゝ、やっぱり日本人だな」と思いつつ、かえって、意味のない「鮨屋の、りり尽」の話が変に忘れられなくなってしまったというわけだ・・・。

〔文・絵(有明海) ☆ 江戸ソバリエ協会理事長 ほしひかる