第215話 自分らしさ
ある朗読会に参加した。自分の作品を読んでいただくということだったが、その前に幾つかの練習があった。
一つは、発声練習。二つは声が届く練習。三つは勘の練習だった。
一番目は、大きく口を開けてハッキリ発音する。これは分かる。
二番目が面白い。10mぐらい先に3人の人(Aさん、Bさん、Cさん)に後向で立ってもらう。こちらは(Dさん)、その3人のうちの1人、たとえばAさんの背に向かって「オ~イ」と呼びかける。3人は自分が呼びかけられたと思ったら、手を上げる。たとえば、Bさんが。とすると、DさんはAさんに呼びかけたのに、Aさんのもとへ声が真っ直ぐ届かなかったということになる。これは舞台と客席の間で声を通す練習だろう。
三番目は難しい。全員(この場は13人だった)が、円になって立つ。そして、誰でもいいから、誰かが「1」と言う。続いて、誰でもいいから、誰かが「2」と言う。それを13まで続けていくゲームだが、誰かと誰かが同時に数字を言えば、またやり直す。簡単なようで難しい。なかなか13まで達しない。これは舞台に立つ俳優どうしの間合いと、客席の気配を感じる練習だろう。
こうした練習の後に、私の作品「八百屋お七」を朗読してもらったわけだが、自分の作品を感情こめて読んでもらうというのは、この上もなく幸せなことである。
ところで、たまたまではあるが、ここのところ講演やテレビ収録が続いた。その度に人前に出て話すことが苦手なことを思い知らされ、反省の連続である。しかし、先述のような練習を心がければ、少しはちがうかナと思ったりしたが、やはり私は調べたり、書いたり、プロデュースする方が似合っているようだ。
〔エッセイスト、江戸ソバリエ認定委員長☆ほしひかる〕