第517話 武蔵の国蕎麦打ち名人戦

     

「武蔵の国蕎麦打ち名人戦」も今年で6回目を迎えた。
これまで続けられた主宰者の思いと責任感に敬意を表したいところである。
ここであらためて6回の名人をご紹介すると、初代名人仲山徹(茨城県)、第二代名人小川喜久治(埼玉県・江戸ソバリエ)、第三代名人加地豪(北海道)、第四代名人前田幸彦(富山県)、第五代名人原秀夫(長野県)だ。
審査員が多いからか、私以外の審査員の眼が鋭いのか、これまでは名人に相応しい人が選ばれている。
第6回目になる今日は36名の人が挑戦した。そのうち9名がソバリエさんだ。
私をこの会に引っ張り込んだのは、ソバリエのYSさんだ。蕎麦打ち道一筋の中に蕎麦文化を入れようという魂胆から、主催者に私の事を推薦したらしい。また主宰者もその考えにのって、私を審査委員長にしてしまった。
そんなわけだから肩の荷は重い。審査というものは、蕎麦打ちばかりではなく何事も難しい。神経と頭を使うものであるから気が安まらない。
しかし、挑戦者はもっと大変だろう。同じコンクールでも自宅で制作するものと違って、試合場での戦いというのは怖い。そこが会場には魔物がいるといわれる由縁だ。それに負けぬためには、会場の雰囲気を味方にしなければならない。講演だって、TV出演だって同じだ。
そんな中で、選手と審査員は勝負している。緊張の一日だと毎回思う。
「武蔵の国蕎麦打ち名人戦」は、「美味しい蕎麦を打つ」ことが課題とされている。だから蕎麦粉を自分で選ぶ。そして蕎麦打ち、茹でて、食味審査を経なければならない。
その長い一日の結果、第六代名人には掛札久美子(茨城県)が選ばれた。この会では初の女性名人だ。おめでとうございます。

〔文 ☆ 武蔵の国蕎麦打ち名人戦 審査委員長 ほしひかる
写真提供:『蕎麦春秋』