第590話 ‘旨さ’の景観
2019/09/13
今日は新潟市で講演だった。新潟県での講演は4回目である。
今回頂いたお題は「納涼そば紀行」。内容はいま流行の《冷やかけ》の色々を紹介してほしいということだった。
このトレンドは食べ物史としては重要だが、ここでは割愛させていただく。
話は変わるが、このように地方へ行ったときとか、旅行をしたときは、できるだその土地の色を味わい、理解しようと努めることにしている。例えば、
①その地区に聳える山や、象徴的な景観の絵を描くこと。
②その地区の蕎麦以外の名物を知ること、食べること。
③その地区の在来蕎麦のことを訊いてみること、食べること。
その手がかりとして、何処へ行ってもお土産売場に立ち寄ってみる。そうすると、新潟の場合、噂に違わず米どころであることがいやでも分かる。売場にはお米がズラリ、加えてお酒からお菓子まで米製品のオンパレードだ。だから「さとうのごはん」なんて画期的な食品も新潟で誕生したのだろうと思ったりする。
ことほどさように新潟は米が王道である。そんな中、妙高地域では、こそば、妙高在来、頚南在来の栽培が続けられている。こそば、妙高在来は東京の蕎麦店で食したことがあるが、頚南在来はまだない。
そんなことを思いながら、前回訪れたときに、孤高の「妙高山」の絵を描いた。すると、何となく蕎麦は妙高とか佐渡の片隅で続いてきたのだろうことが想像できた。
次回は機会があったら、佐渡を訪れたい。その時はおそらく僻地の景観を描くだろう。
さて、講演が終わってから、皆さんと新発田の温泉に入った後、蕎麦屋「一寿」さん宅に泊めさせてもらった。彼は「ほしさんと出会ったことでオレの蕎麦人生は変わった」とまで言ってくれる男である。要するに、相手を尊重する気持が強いのだ。もちろん私も彼を敬愛しているが、おそらくたいていの人たちが同じ思いなんだろう。だから彼の元には人が集まる。この日もO大学の松本先生や多くの人が彼の所でやっかいになった。
夜は、村上牛のブ厚いステーキや、日本海のきれいな魚介の刺身がズラリ。やわらかい村上牛は噛む必要がないほど、新鮮な刺身は歯ざわりがいい。おまけに貴腐ワインの栓まで抜いてくれた。「ここはホントに蕎麦屋かい?」と言いながら、口に含むと甘い!!
米が美味しいクニは他の食物も美味しいという。なぜならそのクニの森から流れる滋養に満ちた水はそのクニの田んぼや海を豊穣にしてくれる。だから米や魚介が旨いという循環だ。山の絵を描いていると、その循環が景観となっていることが伝わってくる。ほんとうは山も川も田んぼも海も一枚に描きたいところだが、その力量がないためできない。代わって、想像で水の流れを追うわけだ。
さて、夜も更けた。彼は朝が早い。もう寝ようかと言いながら、締めに食べた《炙った青葉の巻きおにぎり》が旨かった。
〔文・挿絵・写真 ☆ 江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる〕