キリン「袋型培養槽生産技術」を活用した研究発表

      執筆者:shirai

キリンホールディングスの基盤技術研究所は、キリン独自の「植物大量増殖システム」の一つである「袋型培養槽生産技術」を活用した、「袋培養型技術を活用した病害虫フリーでかつ緊急時バックアップも可能な農場システムの研究」を、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)、竹中工務店、国立大学法人千葉大学、東京理科大学と産学連携で実施した。同共同研究は、JAXAが受託した国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)イノベーションハブ(JAXAが中心となり、様々な異分野の人材・知識を集めた組織を構築し、これまでにない新しい体制や取組で、宇宙探査に係る研究の展開や定着を目指してプロジェクト群を運営する取組み)構築支援事業に基づき実施したもの。同社は、同共同研究の成果について、12月5日から12月6日に東京都で開催される「The 3rd International Moon Village Workshop & Symposium」で発表を行う。近年、宇宙旅行や宇宙滞在が現実味を帯びるようになり、世界各国で宇宙空間での長期滞在技術の開発が進められている。2019年には多国間で実施予定の「月軌道Gateway計画」が公式に発表され、日本においてもJAXAに「月面農場ワーキンググループ」が設置される中、宇宙空間における食料の安定供給は重要な課題のひとつとなっている。同共同研究では、月面施設で作物を栽培する「月面農場」の実現を目指して、技術開発を行いった。地球上と異なり、月面での作物栽培には、栽培に多量の水を利用できないこと、病害虫発生リスクを徹底的に防止する必要があること、低圧環境であることなどさまざまな制約がる。同社が開発した「袋型培養槽生産技術」は、袋型の培養槽を用いた当社独自の植物生産技術で、生産効率が高く、軽量かつ安価で、作業上の安全性も優れているという特長があります。また、小型の袋の内部で水を循環させながら植物を増殖させるため、土壌栽培よりも水を有効利用できる上、ウイルス・病原菌フリーであることから、同技術は月面農場に有効活用できる可能性がある。さらに、小型の袋を用いた小ロット生産のため、月面居住人数に合わせて栽培量をコントロールすることもできる。そこで、ビタミンC源としてのレタスの植物体、炭水化物源となるジャガイモの種イモ、タンパク質源となるダイズ苗を対象とした、増殖の確認試験を実施。低圧環境下での生育可能性の実験を、千葉大学の低圧植物育成チャンバーで行い、さらに実験後には、栄養成分評価、物質収支評価※5、低圧栽培の成立性などの基礎的確認を行った。その結果、地球上の常圧下と同様の増殖形態を再現することができた。同社は今後も産学連携で本技術を発展させ、今回研究を行っている月面農場のJAXA、アメリカ航空宇宙局(NASA)など宇宙機関への提案につなげていく。キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(以下、KV2027)」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業になる」ことを目指している。「植物大量増殖技術」は、その一端を担うコア技術で、キリングループのCSV重点課題である、世界の環境問題解決に貢献できる可能性があると考えている。また、KV2027の実現に向けて立ち上げた、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)の中間領域にあたる「医と食をつなぐ事業」の取り組みの一つである、「植物スマートセル」を活用した事業展開にもつながることが期待される。