第644話 利他主義
こういうときこそ蕎麦屋巡り
江戸ソバリエの店である「小倉庵」は自宅から近いからいわゆる「自粛」中でも時折訪ねていた。彼の店はこういうときでも、(1)消毒液を置いて、(2)マスクをして、(3)換気のために窓を開け、営業していた。
というのは、①この店は常連さんが多くて、なかには毎日来店されるお客さんもいらっしゃるから開店していた方が喜ばれる。②それに自宅店舗で、③家族経営だから、経営は安定しているようだ。
そういえば、江戸ソバリエ講師の錦町更科の店主は「蕎麦屋は家族経営がいい」と講座のときも語っておられた。こちらも自宅店舗で、常連客が多い。先日訪れたときもお元気だった。
両店とも、世の中の激変にも落ち着いておられる。というよりか、経営の基本的なこととは何かをうかがい知ることができたように思う。
もちろん、経営法は多種多様あっていい。ただ繁華街の賑いの主役であった店に限って「家賃負担」が経営を圧迫している現状はお気の毒だ。
ところが、スカイツリーへ出店されている「K庵」(江戸ソバリエ講師の店)の社長さんはこうおっしゃっておられた。「根津さんは凄い方だ」と。根津さんというのは東武根津財閥のオーナーだ。聞いてみると「緊急事態宣言中の家賃は売上次第でいい」ということになっているらしい。つまり売上がなかったらテナント料は免除という意味だ。それも世間でニュースになる前に、いち早く打ち出してくれたのだという。聞いている小生も感動してしまいそうだった。その後、いろんなところでテナント料の話を訊いてみると、家賃対応はデベロッパーによって千差万別だったようだ。
そんな状況だからだろうか、最近、思想家アタリの言う「利他主義」とか、新実存主義者マルクス・ガブリエルの「倫理資本主義」とかの考え方が注目されている。つまり供給側も需要側も自己の利益ばかりではなく、相手のことも考えようということである。それが自分の利益にもなる。まさに東武Gの姿勢である。
そういえば、われわれ消費者だって「倫理的消費」ということがあると前からいわれている。もっと安く、もっと便利に、もっと楽しく、もっと美味しい物を、もっと珍しい物を、もっと上達したい、もっと、もっと・・・という人間中心の欲望だけの選択基準でいいのかというわけである。温暖化、CO2、プラスティク、食品ロス・・・と地球規模の問題が押し寄せている。
とはいっても、経済・技術の発展と倫理は合わないという意見がこれまでは多かった。しかし、そうではない。解決の場があるというのが新しい考え方である。それはまた次回にでも・・・!
〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ ほしひかる〕