第653話 こういうときこそ蕎麦屋巡り

     

~ 蕎麦屋のテラス席 ~

 親友の松本行雄さんから電話があって「蕎麦屋にはテラス席がないのはどうして?」と訊かれた。
   なので、「基本的に日本の家屋は、家の中と外は明確に分けている。だから家に入るときは靴を脱ぐ。花見・紅葉狩りや芝居見物などの行楽以外は、外で食事する文化も少ないから、テラス席の発想はない。ただ駒込の小松庵はテラス席があるよ」とお答えしたところ、「行ってみたいので、連れて行って」ということになった。

 待ち合わせの途中にチェーンのコーヒー店が目に入り、ちょうどテラス席があったので、スマホでパチリ。ゴッホの絵にも「夜のカフェテラス」という作品があるが、食事とおしゃべりを楽しむ西洋にはこうしたテラス式が発想されたのだろう。その点、日本の場合は行楽が目的で食事は二の次で弁当ていどだ。だから外食店にはそのような設えはしていない。
   というようなことを松本さんにお会いしてから、申上げたところ「そうかあ。コロナ禍の今、開放型のお店は受けるんじゃないかと思ったけどなあ」とのこと。なるほど。眼の付け所は面白い。さすがに世界各地を歩いている彼らしい柔らかい発想である。

 ところで、小松庵のテラス席はというと、六義園の枝垂桜の季節はテラス席が大人気らしい。この場合、行楽は行楽だが、見物し終わった後に立ち寄って、「きれいだったね」とか、おしゃべりと食事を楽しむには六義園が見えるテラス席にが最適だというわけである。

 松本さんの発想のコロナ対策としては地方の広い土地で商っている店なら、臨時のテラス席を作って、持て成すのもいいだろう。

文 ☆ 江戸ソバリエ協会 ほしひかる
写真:ほし ゴッホ「夜のカフェテラス」:絵葉書