健康ニュース 10月1日号 今は昔、味覚地図

     

隣家のインテリ夫人「先生、聞いてくださいな。孫とスイカを食べながら、甘みは舌先で感じるんだよって言ったところ、怪訝な顔をして、そんな話、初めて聞いたというのです。学校では教えないのでしょうかね・・・」

隠居中の大御所 暈穀菜「それは面白い話だね。君には悪いが孫のほうが正しいよ。いや、君が甘みは舌先で感じると教えられ今もそう思っているのも仕方ないことだがね。1990年代までは味覚、主に甘さ、苦さ、酸味、塩味を舌のどの部分で感じるかということを学んでいたからね。君が言っている通り甘さは舌先で、舌先に近い両側で塩味を、奥に近い両脇で酸味を、舌の奥では苦みを感じると、舌のイラストに描いてあったのを覚えているのだろうね。大した記憶力だよ」

隣家のインテリ夫人「では今では違うというのですか?時代が変わっても舌の構造は変わらないでしょうに・・・」

隠居中の大御所 暈穀菜「確かにそうだよね。ただ最初に発表した論文自体が間違っていたということだよ。いや、当時は正しいとされていたのだろうね。1901年にドイツのヘーニックという医師が発表し、2度のノーベル賞を受賞したあの有名なアメリカのポーリング博士が1942年に翻訳して舌の味覚地図が広まった、と言われている。しかし1990年代にはこの論文自体が否定されており、その後教科書には掲載されていないから孫が知らないのも当たり前ということだね。付け加えておくと、舌のどの部分でも甘味をはじめとする五味全てを感じるということだよ」

隣家のインテリ夫人「そうでしたか・・・。納得ですね」

隠居中の大御所 暈穀菜「スイカの甘みが出たついでに聞いておくれ。食べ物の美味しさと旨さは違うということを知っておくと役立つよ」

隣家のインテリ夫人「美味しいということは旨いということでしょう。」

隠居中の大御所 暈穀菜「普通はそう思うだろうね。でも学者に言わせると違うのだね」

隣家のインテリ夫人「学問の世界はちょっとしたことでも言い方を変えて、さも正論のようにしてしまいますよね」

隠居中の大御所 暈穀菜「まぁ聞いておくれ。美味しさとは、味(味覚)、料理の見た目(視覚)、香り(嗅覚)、食感(触覚)、噛んだ時の音(聴覚)の五感に加えて食事時の雰囲気、環境なども影響するものとされている。一方旨味とは、グルタミン酸やイノシン酸のパワーによるものと言われている。これは知っておくときっと役立つこともあるだろうね」

隣家のインテリ夫人「参考になりますね。一つお聞きしたいのですが、辛味は味の世界ではのけ者扱いですか?」

隠居中の大御所 暈穀菜「良いことに気づいたね。辛味は舌の味覚感覚、味蕾と言っているが、そこで感じるのではなく神経で感じ取る痛覚の一つと言われている。ただ東洋医学でいう五味は、旨味でなく辛味が入っているから間違えないようにね。旨味はあくまでも料理の世界での話だよ。いやー、熱を込めてしゃべりすぎたな。一息入れようかね。美味い冷酒をいただいたから一杯やろう。肴は旨味いっぱいの焼き鳥に辛味の効いた唐辛子をつけるのが良いな」