第684話 大草原の小さな家
『世界蕎麦文学全集』物語 26
年功を積まれた諸先輩方なら、NHKで『大草原の小さな家』というアメリカの家族ドラマを放映していたことを懐かしく憶えておられるだろう。
原作はローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957)が64歳から書いたインガルス一家の家族史小説である。きっかけは一人娘のローズにすすめられて書き始めたが、『ローラ物語』シリーズとして9作品にも及んだ。
娘のローズはジャーナリストだったが、娘の「老人は宝物」という敬愛の眼がアメリカ開拓史のなかの貴重な物語を生むことになったのだろう。
『ローラ物語』
1.『大きな森の小さな家』
ウィスコンシン州の大きな森の丸太小屋に、両親と三人の娘(メリー、ローラ、キャリー)のインガロス一家が開拓生活をしていた。主人公のローラは5歳。
2.『大草原の小さな家』
一家は新しい土地を目指して幌馬車でインディアンの居住地にやって来たが、一年後にインディアンに襲われて再び去る。
3.『プラム・クリークの土手で』
一家は、北のミネソタ州へ、そこで横穴の家に住むようになる。
4.『シルバー・レイクの岸辺で』
一家はダコタ・テリトリー(サウス・ダコタ州)のシルバー・レイク畔に落ち着き、わが家を建てる。ローラ12歳。
5.『農場の少年』
後にローラの夫になる少年アルマンゾ・ワイルダーの物語。
6.『長い冬』
19歳のアルマンゾが兄のローヤル・ワイルダーの飼料店で、《蕎麦粉のホットケーキ》を焼いている場面が描かれている。
7.『大草原の小さな町』
少女から大人になろうとするころ、ローラはアルマンゾと親しくなる。
8.『この楽しき日々』
ローラは、ダコタ・テリトリーから離れた開拓地の小さな学校の教師になり、アルマンゾと結婚。ローラ18歳、アルマンゾ28歳。
9.『はじめの四年間』
ローラとアルマンゾの結婚生活4年間の話。
このうちの『長い冬』の中で《蕎麦粉のホットケーキ》が出てくる。
アルマンゾという19歳の青年は蕎麦粉で作った、軽い、ふわふわした、ホットケーキに糖蜜をたっぷりかけて食べるのが大好き。またホットケーキを焼くのが母親より上手だというのである。たしかに《小麦粉のホットケーキ》には《メープル・シロップ》が合うが、《蕎麦粉のホットケーキ》には《糖蜜》や《蜂蜜》の甘さが合うと個人的にも思う。
アルマンゾがそれを焼いている情景はこう描かれている。
~ 鉄板の上のホットケーキは、三つともふちが焼けてきたところにブツブツと小さな泡が出てきた。アルマゾフはそれをひょいと器用にひっくり返し、狐色に模様のついた表面の真ん中が膨れるてくるのを見ていた。そのおいしそうな匂いと、塩豚を炒めたいい臭いと、煮立っているコーヒーの香りとが混じりあっていた。~
このアルマンゾ青年は、主人公ローラの将来の夫となる人物であるから、この蕎麦粉のホットケーキの場面は物語としても象徴的な場面であると思う。
ローラ一家が住んでいたサウス・ダコタ州は、今でも農業が主要産業の州であるから、当時は蕎麦を栽培していたと思われる。
『世界蕎麦文学全集』
51.『長い冬』(『ローラ物語』)
文:江戸ソバリエ認定委員長 ほし☆ひかる
アメリカ合衆国地図:ネットより