第746話 おかえりゆき

     

 今日も料理研究家の林幸子先生と食楽散歩をしようということになった。行く先は目白の「発芽そば ゆき」。先日、林先生が発芽そばの「おお西」(上田市)を訪ねたからということから、そうなった。
  林先生の料理の考え方は、われわれ男性に分かりやすい。たとえば、「天城の山葵はねっとりしているので刺身にはいい。奥多摩の山葵は繊維質なのでお蕎麦に合う」とか、私には納得できる話である。
  たまに女性の先生で「私はこちらが好きなので、よく使います」みたいな説明をなさる方がいらっしゃるが、私は選んだ理由がないとどうも落ち着かない。でも、なかにはその方が共感できるという人もいらっしゃるから、どちらがいいとは言えないが、私は林先生の話はよく理解できる。

  さて、目白駅で先生をお待ちしていると、ソバリエさんたち(齋藤さん、木崎さん、興津さん、永峯さん、斉藤さんら・・・)が一人二人とお見えになった。
  エッ! と一瞬戸惑いながらお尋ねすると、彼女&彼らも「ゆき」での食事会、なので目白駅集合とのこと。そのなかの永峯さんとは先日も小松庵銀座店でデート(?)中にバッタリお会いしたばかりであったが、ほんとうに皆さんの行動力はスゴイ♫ と思う。
  「ゆき」では、八ヶ岳産の蕎麦の《蕎麦掻》《発芽そば》の他に上品な器に盛られた数々のお料理を楽しんだ。とくに《五泉椎茸の雪塩》は気に入った。
  最近、「蕎麦や天麩羅を塩で」というお店が増えてきたが、食べるときに塩をつけるのが微妙に難しいときがある。でも《雪塩》なら見た目もきれいで、食べやすいと思った。
  この“きれい”ということをふくめた上品さがゆきさんの特質である。部屋、調度品、食器、盛り付け、それから日頃の服装などにも、もって生まれた上品さがある。でも、そればかりではない。父親譲りだと思われる事業家精神こそが彼女の本質であると思う。
  というのも、彼女は口数はすくないが、ソバリエ講座を受けるときから「私は蕎麦屋を開業したい」と言い続けておられたし、実際に開業された。
  それによく物事を観ておられるし、自分にとって必要なところはしっかり吸収して、目標に向かってまっしぐらに行動される。あまりおしゃべりはされない方だけど、たまたまある方を評して「ブレない人ですね」という感想を漏らされたことがあるが、ご本人こそ迷いがない。ちょうど今日は朝ドラ「おかえりモネ」の最終回だが、モネのように目標にむかってまっしぐらの人である。
  それが・・・!
  来年早々からお店を休みにしたいと言われた。
  どうして? と、うかがってみると、直接の理由はお子様(3歳)の教育のためにシンガポールに半年ていど行かれるという。アメリカやドバイも検討したが、教育が一番しっかりしている国、自分自身も料理が勉強できる国ということからシンガポールにしたとのこと。
  要は、後楽園で試験的に開業して1年、そして自宅で開業して1年経ったから、次はもう1ランク上を目指したいという気持のようだ。
  半年後、お帰りになったらまた再稼働されるだろうが、もしかしたらそのときはもっと大きな事業構想が胸にあるのかもしれない。楽しみだ♪

〔江戸ソバリエ ほし☆ひかる〕