第749話 国光美佳式「蕎麦食療法」
夜10時ちかくに電話があった。そばの実カフェ「sora」の小池さん(ソバリエ)だった。「急ですけど明日、私の尊敬する国光先生とお会いしますけれど、来ませんか」とのお誘いだった。少し前に彼女から国光美佳先生の『食べなきゃ、危険!』を勧められて読んでいた私は、二つ返事で伺う約束をした。
指定された西武線の航空公園駅で下車してロータリーで待っていると小池さんが車で迎えに来てくれた。続いて国光先生もお見えになったので、3名で小池さんご贔屓の蕎麦屋「松むら」(東所沢)へ向かった。
先生は岐阜からの出張帰りで駆け付けたとのことだった。途中で先生が運転する小池さんに、「本屋さんに立ち寄ってくれませんか」と声をかけられた。理由は、『安心』の2021年の10月号から【ミネラル健康レシピ】を連載しているから私に上げたいということらしい。コンビニを見つけると先生は小走りで行って『安心』の10月号と11月号を買って戻られた。このちょっとしたことだけをみても国光先生という方はかなりの行動派だと見受けられた。
さっそく車中で拝見すると、『安心』の10月号は連載①「天然だし粉末」の記事、そして11月号には連載②「マグルシウム、鉄、銅が豊富な そば」の記事があり、写真は《けんちん煮込みそば》と《そば粉ごはん》、それにrecipeが載っていた。この二つは先生の著書にも書いてあったものだけれど、よりビジュアルに紹介してあった。
小池さんが国光先生のこと私に紹介しようとしている理由が、この写真に表れていた。要は、「私たちが大好きなお蕎麦をこんなに全面的に推薦している科学者は国光先生をおいて他にいらっしゃらないでしょう」というわけである。
まもなくして、「松むら」に到着したので、注文は小池さんにお任せした。
《自家製豆腐》《チーズ茶碗蒸》《牡蠣オイル煮》それに北海道産の《十割蕎麦》が供された。私は豆腐やチース物が好きなので、《自家製豆腐》は嬉しかった。
途中で思い出したが、当店は2016年にソバリエ仲間と上梓した『蕎麦王国埼玉』(高陵社書店)に登場していただいたお店であった。
ただ、今日お話を伺うと、今年かぎりで閉店するという。それなりにお客様に愛されて30年働いたので、今度は自然を相手にした林業に従事したいとのことだった。私は感心した。自給率やSDGsの問題が大きくなっている現在、やはり日本に農・林・漁業従事者が少ないのは致命的である。これだけは、そういう時代だったとはいえわれわれ高度経済成長世代のツケである。幸い最近になって、農業は注目されはじめているが、林・漁業はまだまだであるらしい。
そうときの店主の決意、奥様も賛成され、資格も取得しているという。私は気持のなかで拍手をして差し上げた。
お店を出てから、ファミレスでお茶を飲みながら、国光先生のお話をお聴きした。「子どもの心と健康を守る会」を設立された国光美佳先生が訴えているのは、現代は水煮食品、加工食品、精製食品が増えてきたため、食卓がミネラル不足」に陥っているということである。
このミネラルという言葉をわれわれも聞きなれてはいるが、実はあまり詳しく知らない。というのも、日本人というのは「ヘルシー」という言葉は大好きだ。しかしそれ以上は詳しくないし、知ろうとしない。私自身もそうだけど、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミンまでは理解できるが、このミネラルだとか、あるいは低GIだとかちょっと複雑になるともう苦手である。いま「日本人は」と言ったのは、薬膳とか中医が発達している中国では、食事中に横から「これは肝臓にいい、これは胃腸にいい・・・」といちいちコメントされる。そこで日本人男性と結婚した中国人女性のソバリエさんに確認してみると「はい。私もそうなんです。でもそれを言うと、主人から『いちいちうるさい』と言われます」と笑っておられた。日本人の中途半端なところは良いときもあるが、こういう欠点でもある。
で、話を戻すと、タンパク質、脂質、炭水化物などの単一栄養素については具体的な食品が浮かぶが、ミネラルというと描けない。おそらく「ミネラル」と表記するから単一成分だとの誤解があるだろうから、むしろ「ミルラル類」と言った方が理解しやすいと思う。なぜならミネラルとは、多量のナトリウム、カリウム、マグルシウム、カルシウム、リン、そして微量の鉄、亜鉛、銅などを指すからである。
そのミネラル類が「水煮食品」だと少なくなり、「加工食品」だと奪われており、「精製食品」と含んでいない、らしい。
では、なぜ「水煮食品」「加工食品」「精製食品」が増えてきたというと、食物が工場生産になったから、より効率生産を求めるからである。効率は会社(組織)にとっては益だけど、消費者(個人)にとっては損である。
だから国光先生は、①工場生産食品を食べないで! ②ミネラル類をたっぷり含んだ食物を食べましょう! と訴える。
そして、その②のミネラル類をたっぷり含んだ食物が、お蕎麦すなわち冒頭の《けんちん煮込みそば》と《そば粉ごはん》です、となる。
これを国光先生は、何と「蕎麦食療法」とまでおっしゃっている。
それを知った小池さんはピッときて「まるで江戸ソバリエの神」と目をキラキラトと輝かせておられるわけだ。
ただ、見回せば先生と小池さんだけが輝いている段階ではない。ソバリエや蕎麦業界も考えなければならないだろう。
まずはミネラル類を日常生活に摂りやすくするための課題を検討したい。
小池ともこさんの《そば粉入り栗ごはん》
http://www.edosobalier-kyokai.jp/pdf/202110koike_sobakuri.pdf
〔江戸ソバリエ認定委員長 ほし☆ひかる〕