第771話 辛味大根まつり
~ 蕎麦文学紀行 番外編 3 ~
ここのところ辛味大根にご縁がある。
其の一
事の始まりは令和四年一月四日、友人の大松友紀子さんに誘われて、北原久仁香さんという語り部の『一月四日の客』(作:池波正太郎、於:上中里「浅野屋」で)の口演を聞いたときからだった。
後日、ソバリエの島崎朝美さんに「浅野屋さんは辛味大根でしたか?」と尋ねられたが、残念ながら普通の大根だったので、何となく気持のなかで私の課題となっていた。(第765話)
其の二
それから江戸野菜研究家の大竹先生を通して、JAの渡辺さんから【江戸城濠大根】を蕎麦屋さんに評価してほしいとの依頼があったので、江戸ソバリエの店の大塚「小倉庵」さんと北池袋「CHOJUAN」さんにお願いし、また江戸料理研究家の福田先生にも味わって頂いた。(第765・769話)
其の三
それからそれから、ソバリエの中村さんに「故郷の【伊吹大根】が手に入ったので食べてみて」と頂いたので、辛味大根にご縁のある「小倉庵」さんと「CHOJUAN」さんにもお分けして、自宅では史料に出てくる「ふろふき」にして戴いた。
其の四
そこへ、大竹先生から「更科堀井さんで《鬼おろし蕎麦》を供しているよ」と電話があったので、ご一緒した。
今日の辛味大根は【江戸辛味大根】。その絞り汁に「溜まり」と「鰹削り節」を入れて蕎麦を啜る。ただ辛味大根は水分が少ないから絞るのもたいへんだ。一人分で約半分を使うという。しかしこの辛味汁を欠かすと、「鬼」にならない。
今日は節分。この辛さで、鬼(コロナ)も逃げ出してくれればいいが・・・なんて願いながら、『二月三日の客』の短編小説ぐら書けるかなと妄想したりした。
其の後
同じ「根物」でも蓮根は穴が空いていて、先が見えるから縁起がいいという。だから「蓮根は穴がうまい」と気障なことを言った人がいる。
じゃあ大根はというと、作家の中野重治や庄野潤三は随筆『沓掛筆記』や『野菜讃歌』『大根のしぼり汁』のなかで「大根のおろし汁こそ、うまい」と言っているとおり、大根はあま・辛関係なく絞り汁こそ命だろう。
マ、とにかく更科堀井の絞り汁付きの蕎麦で、冒頭の島崎さんからの課題は果たすことができただろう。
〔江戸ソバリエ ほし☆ひかる〕