第783話 七五三と上巳の節供の、春の膳

      2022/04/10  

☆陽暦と陰暦の話
 桜咲く日に孫の七五三の会食会をしました。
  「しました」と言いましても娘夫婦の主催ですから、ジジババは脇役として招かれただけです。
 本当は11月15日にやるべきところ、コロナ禍で学級閉鎖などがあったりして決断が鈍り、遅れての実施ということになりました。
 ついでに申し上げますと、この「本当は」というのが、わが国の伝統行事を理解しようとするとき、ややこしいのです。
 七五三というのは陰暦十一月十五日(陽暦12月8日)にやるのが「本当の本当」だそうです。なぜ十一月十五日かといいますと、この日は二十八宿中の鬼宿にあたり、しかも満月ということで、一番の吉日らしいのです。もちろんこれは中国の古典思想です。宿というのは「星宿」、つまり今でいう「星座」のことです。天体を四方(北・西・南・東)に分け、それをさらに七つに分けると四×七=二八星宿になります。今の人は西洋占星術の方が分かりやすいかもしれませんので、それに当てはめると「蟹座」に当たるらしいです。
  しかし現代では、七五三は陽暦の11月15日に行うのが本当ということになっています。しかし残念ながら、この日は満月ではないのですね。ここに「本当」(陽暦)と「本当の本当」(陰暦)との差が生まれました。
  そのうえに、11月15日が平日に当たった年には、変更して伝統行事を土日に実施したりしますから、本来の適した日が見えなくなってしまいました。明治政府が陽暦を採用したとき伝統行事は陰暦で実施するように指導していたら、国民も分かりやすかったでしょうが、これこそ「後の祭り」です。余談になりますが、「後の祭り」とは「マツリゴト=政」の失敗、つまり失政を指すのではないかと理解しました。なぜなら一度変更したら、次は容易に変更するのが人の習性というものです。そうなりますと、もはや日にちを固守する意味はなくなるわけです。
 そんなわけですから、桜咲く日の七五三もありといえるでしょう。
   そう思いながら、深大寺「門前」の浅田様から頂いた「暦(陽・陰)」を見てみますと、あらら♪ 今日陽暦4月3日陰暦の三月三日「上巳の節供」ではありませんか。女の子の祝日として最適だったわけです。

☆七五三、春の膳
  その上巳の節供七五三の主役の孫娘はとにかく元気です。
  歌ったり、跳ねたり、親にじゃれたり、ゲームをしたり、次から次に遊び事を考え出します。そんな彼女ですから、保育園は楽しかったけど、小学校の授業は体育と工作以外は退屈なようです。でも週3日通っている英語塾は遊びながらの学びらしく、楽しいそう。要するに、座った勉強はあまり好みじゃなくて、身体を動かすのが大好きみたいです。だから、友だちが多く、人への思いはあついようです。
 生きていくのには勉学も力となるでしょうが、人への思いや交流や現場での学びも大きな力となっていくでしょう。ですから安心です。そして何より元気が一番だと目を細めて孫娘の晴れ姿を眺めていました。

 一日中かかった写真撮影などの後、娘夫婦が横浜の「寺家 ひらさわ」という和食屋に招待してくれました。
  御献立は、次のようなご馳走でした。

 一、旬の物:土筆、薇、筍の煮物を冷やしもの、
       春の和野菜の象徴的なものがズラリ、それだけでも春のときめきがあります。一の膳としては成功だと思います。
   一、煮物:新じゃがいもの汁に厚木豚煮  
       ここでも春らしい「新」があります。やさしい味でした。
   一、生の物:鮪と烏賊の刺身
       「マグロ」は東日本での呼び名、西日本では「シビ」といいます。そんなところから鮪は東日本の魚の雄でした。でも東京語が日本語となってから「マグロ」は全国で通用するようになりました。「赤身は厚く、白身は薄く切れの基本通り、厚みの赤身は口中を満たしてくれます。
    いずれにしましても、日本料理では刺身は信仰にちかいものがあります。ですから刺身のない和の膳はありえません。しかも最近は氷の上に盛り付けます。これも涼味を求める和の膳の形だといえます。
    一、焼き物:真鯛と大島桜の包み焼き
       鯛は和食の目玉です。真鯛は桜のころの瀬戸内海に産卵ために入ってくるので「桜鯛」とも呼ばれています。それを日本の花の桜で包めば、日本を日本で包んだようなものです。香ばしさと鯛のあま味が美味しいです。
    一、焼き物:山形黒毛和牛と筍のステーキ
        和牛のステーキは今や和食の仲間になりました。筍は今朝掘ってきたそうですが、焼いた筍の触感が大好きです。
    一、ご飯:ひじきの釜ご飯と味噌汁と香の物
     釜炊きご飯と味噌汁は日本人の食事の基本です。おまけのお焦げが懐かしく美味しかったです。
    一、甘味:桜餅
       日本の米文化には、粳米の側に常に餅米が寄り添っていました。今日の甘 味にその構図の演出が感じられました。

 粳米餅米のことに目を向けましたら、今日の御献立は上手い構図になっていたなと思います。西の鯛東の鮪のことは申し上げましたが、牛肉もどちらかといえば西の食文化、対して豚は東の食文化です。すき焼きから牛肉も和食の仲間入ってきていますが、最近は豚肉も和食に入ってきたように思います。

 ごちそうさまでした。今日も食べすぎました。  
   伝統行事に関わった日には和食を通して日本を考えるのもいいと思いますが、それはソバリエとしての姿勢。
   〝高貴高齢〟のジジとしましては、とにもかくにも子どもたちの永久の健康と、戦争のない平和な日々を願うばかりです。(1922.4.3)

                          〔江戸ソバリエ ほし☆ひかる〕